バニラシェイクの読経



その姿を次に見かけたのはそれから三日後のことだった。

「また今吉に用事か?」
「いいえ」
にこ、と浮かべる笑みは所謂お出かけ用だろう。
それが作り物だと分かると同時に、諏佐はそれを綺麗だと思った。
勿論、気に入った訳ではないが。
「じゃあ、どうして、」
「今回は、」
遮って花宮が距離を詰めてくる。
そうして近くで見るとより一層その表情からは邪悪さがすっこ抜けていて、
諏佐は思わず笑ってしまった。
その下にあるであろうそういうものを見てみたいと、そう思った。

たった一瞬だったろうに、諏佐の思考を読んだかのように花宮の表情は歪んだ。
しかしすぐにそれは覆い隠される。
「今回は貴方に用があって来ました」
下から肉食獣のような目でこちらを見てくる年下の少年に、ひくり、と口角が上がるのを感じた。



ずご、という音がする。
結露のついている紙カップからシェイクが啜られていくのを、諏佐は眺めていた。
如何にもジャンクフードなどもってのほか!みたいなお上品な顔をした花宮が、
こうして自分の目の前でシェイクを啜っているのは何かちぐはぐで、
笑いをこらえるのに必死だったとも言う。
「…何笑ってんですか」
バレていたらしい。
「いや、花宮とファーストフードは似合わないと思って」
「良く言われます」
ずご、という音をまたさせて飲み込むのだから、今度こそ耐えられずに吹き出してしまった。
そんなに面白いですか、という不機嫌そうな声に、かなり、と返す。

子供のように頬を少しばかり膨らませた花宮はもう一度ずご、とシェイクを啜ると、
ふと視線を雑踏の方へと向けた。
「同じ皮翼種でも龍翼の方は不思議ですね」
花宮の目線の先にいたのは小さな子供だった。
その背中には花宮のものよりも大分しっかりとした羽根が、鱗を付けて生えている。
「オレみたいなコウモリ翼はそのまま動物のものとほぼ一緒ですけど、
龍翼の方は未だ同じ構造をしている動物には鱗は見つかってないんでしょう?」
「らしいな」
「人間にどうやって遺伝子が紛れ込んだかまでは分かりませんが、
其処で何か変換が起こったんですかね」

鱗の生えた羽根がきらきらと陽の光に反射していた。
それを見る目が思わず細まる。

「どうだろうな、そういうのは花宮の方が得意なんじゃないのか?」
振り向いた顔は笑えていたと思う。
「…諏佐さんは興味ないんですか」
「まぁ、そうだな。どちらかと言えばないだろうな」
あまり関係のない話だしな、と呟けば、気に入らない、
というように花宮はまたシェイクを啜った。

その音が諏佐には、妙に悲しそうに聞こえた。



20140106