うつくしい思い出



「これ、何だ?」
綺麗だな、と諏佐が目に止めたのは小さな瓶に入れられた、黒い欠片だった。

なんやかんやで花宮と付き合うようになって数ヶ月。
諏佐がそれに気付いたのは、何度目かの花宮家訪問の時のことだった。

花宮の勉強机の隅に、隠すようにして置かれた小さな瓶。
持ち上げてみると小瓶の中で、その欠片ははらり、と舞った。
とても薄い。
しかし、見る限り割合しっかりしているもののように見えた。

「初恋の奴の欠片」
答える花宮はにい、と唇の端を吊り上げる。
「叶わないって知ってたから毟ってやりました」
「それは…なんていうか、ご愁傷様」
勿論、それは顔も知らない花宮の初恋の相手に向けられた言葉だ。
何処の誰だか知らないが、痛かったろう。
顔も名前も存じ上げない不運なその人間に、諏佐は心の中でだけひどく同情する。

花宮にとって恋愛と執着はほぼニアリーイコールと言って良いようだと、
この様々な方向で凄まじかった数ヶ月間で諏佐は既に良く学んでいた。
諏佐からも同等レベルのものが向いているから良いものの、
これが一方的だったら、と考えると背筋に冷たいものが走る。

「嫉妬します?」
べたり、と背中に熱を感じると同時に、腰周りをぎゅうと引き寄せる腕に捕まった。
振り返りかけたこめかみにぐさぐさと注がれる視線なんて気のせいだ。
「いや別に」
一刀両断した諏佐を、面白くない、というようにじとりと見上げてくる瞳を無視して、
その小瓶を部屋の蛍光灯に透かしてみる。
「綺麗だな」
光の加減で青にも緑にも紫にも見える黒い欠片。

思い出と勝負する気などさらさらなかった。



20140111