嘘だらけの関係で、



山崎は古橋に変わったと言ったが、古橋に言わせれば山崎だって変わったと思う。
羽根を晒す時にずっと眉間に刻まれていた皺が、今ではもう殆ど見られなくなった。
それが単純に回数をこなしたことによる慣れからなのか、
誰かと、この場合古橋と、
秘密を共有したことによる幾ばくかの解放からなのかは分からなかったが。

すい、と翅脈に沿って指を滑らせても、山崎の羽根はぴくりとも反応しない。
これが動いていた時のことが気にならないと言ったら嘘になるが、
こうして無反応にされるがままであるということに、なんとなく気分が良くなるのも事実だ。

「山崎」
ふと、気付いて声を掛ける。
「なんだよ」
「羽根の先端が少し、欠けているように見えるんだが」
「あー…」
不明瞭な返事。
「確か、どっかに引っ掛けたとか、そんな感じ。
わりと弱いんだよ、虫の羽根って」
そう笑う山崎が嘘を吐いているのなんか、分かりきっている。

でも、それでも良いと思った。
小さな嘘で武装することで、山崎が心やすらぐのなら。

もうその名を古橋は知っていた。
だけれど、まだ言うことなど出来ないと、そうも思っていた。

もう少し、もう少し。
せめて、山崎がその背中の羽根のことを秘密にしなくても良くなるまで。
それまでは、この思いに気付かなかったふりをしよう。
そう、心に決めた。



(すべて、赦せる)
20131224