運命交差点



隣、良いですか。
そんな声にアイマスクを押し上げると、キャスケットをかぶった少年がこちらを見ていた。
「ドーゾ」
同い年くらいだろうか、平均身長くらいであろう彼は少し幼い顔立ちをしているようだったが、
醸す雰囲気が大人と同等のそれだった。
「起こしてしまいましたか?」
すみません、と目を伏せる少年に、別にうたた寝だったからいーよ、と返す。

少年が隣に腰掛けてすぐ、外の風景が動き出した。
ここが何処かと言うと新幹線の中である。
たった今東京駅から出たそれに瀬戸が乗り込んだのは扉が開放されてすぐだったので、
うとうとしていたのは時間にして五分くらいだったのだろう。
短い時間ではあったが眠気は既に収まっていて、瀬戸はアイマスクを取って軽く伸びをした。

「何処へ行くのか、聞いても?」
コートを脱いでキャスケット外した少年が問うて来る。
ちらりと見遣った顔に見覚えはあったが、深くは考えずに答えた。
「京都」
「じゃあ同じですね」
「ちなみに葬式」
「そこは違いますね。俺は帰るところです」
今、向こうに住んでいるですよ、と笑った少年に、ふうん、と返す。
ぞんざいな反応だったろうに、少年は気を悪くした様子もなかった。

それどころか何が琴線に触れたのかは知れないが、少年はずい、と身を乗り出して来る。
その視線の落ちるところは、やはり。
「気になる?」
「ええ」
俺にはないものですから、との呟きにはそう、とだけ返した。
「普通の人間?」
「だと思っています。
家の者は翅翼種だが事故で損傷したので切除したのだと言いますが、信じていません」
「へえ」
見せてもらえませんか、と控えめに問うた少年に、いいよ、と背を向ける。
なんとなく、その表情を無下にするのも勿体ない気がしたのだ。
「キバネツノトンボですか?」
「良く知ってんね」

瀬戸健太郎の背中には羽根がある。
それはこの世界ではさして珍しいことでもなく、
人口の三割程度を占めるその種は翼人種と呼ばれていた。
幾つか種類のある翼人種のうち、瀬戸は翅翼種に分類される。
虫と同じ構造をした羽根を持つ人間、と言えば分かりやすいだろう。

少年の細いがしっかりとした指が翅脈の間を滑っていった。
それが気持よくて羽根を小さく震わせると、ふふ、という嬉しそうな笑いが漏れる。
「すてき―――ですね」
その言葉には羨望も媚も感じられなかった。
へんなやつ。
それが、少年へ抱いた瀬戸の素直な感想。

そんなふうに少年と話していたら、二時間と少しなんてあっという間だった。

最後に少年はありがとうございました、と言った。
俺の話に付き合ってくれて、ありがとうございました、と。
ひどく嬉しそうなその顔にはやはり、ドーモ、という気のない返事をするだけに留めておいた。

もう二度と会うことはないのだと、そう思っていた。



20140128