うしろの正面だあれ
ばちり、と合った視線に取り繕うことはしなかった。
「あー…」
山崎が不明瞭な言葉を発しながら頬を掻く。
「見た、よな」
「ああ、ばっちり」
「そうだよな…」
一瞬のことではあったが見間違えたとは言えないほど、古橋はしっかりそれを見てしまった。
今は既に服で隠されてしまってはいるが、
山崎の背中にあった、黒っぽいものはどう見ても羽根だった。
如何せん一瞬だったので種類までは分からなかったが、羽根であることは間違いないだろう。
一年以上同じ部活に所属していてそれなりに交流もあった方だとは思っていたのだが、
山崎が翼人種であるなどと聞いたことはない。
そういえば、と記憶を漁れば、一度も人前では着替えたことがないのを思い出した。
隠していた、と考えるのが妥当か。
「なぁ、誰にも言わないでくれねぇ?」
吐息をつくような弱々しさで山崎は呟いた。
「花宮くらいしか知らねぇんだ、これ」
別に、隠すことでもねーんだけどよ、と続ける。
「でも、なんてーか、隠しときてーんだよ…」
伏せられた瞳を古橋はじっと見つめていた。
別に、山崎がこうして気弱に喋る様に驚いた訳ではない。
ただ、羽根についてこうも頑なに隠したがる姿を見て、
何か心とかそう言ったものを暴いている気分になったからだ。
暴力的な支配欲、一番やわい部分を発見したという快感。
「なぁ、一つ、条件を付けても良いか」
「条件?」
問いかけの形を取ってはいるが、断らせる気はなかった。
「オレに時々、その羽根を見せて欲しいんだ」
「羽根を?」
「ああ」
ほんの少しだけ低い位置にあるその目を逃さない、とでもいうように見つめる。
「勿論、お前が嫌じゃなかったら、だけれども」
案の定、その目が断りきれないと揺れていた。
もうひと押しだ。
「…だめか?」
僅かに首を傾げて、問う。
本当に僅かに、だ。
わざとらしくならないように。
「だめじゃ、ねーけど…」
その言葉を引き出したら、もう勝ったも同然だった。
何かまだ言いたそうな顔に小さく微笑みかける。
「そうか、よかった。約束は守る、誰にも言わない」
そう言ってしまえば、話が終わることを古橋は良く知っていた。
20131220