心の臓を掴まれる
薄く、意識が浮上する。
ぱちり、開かれる瞼。
知らない天井。
どことなく安っぽい、誰の部屋だろう。
そう思って首を回す前に、声が降って来た。
「ああ、起きた?」
いやー悪いね、結構無理させちった。
語尾に星でも舞ってそうなそんな軽々しさで言われた言葉に眩暈を覚える。
この、あらゆるところに感じる痛みも。
喧嘩のあとの感じではない、これは、もっと。
「こっちも経験あるモンだと思ってたよ。処女だったなんてイガーイ」
「って、め」
起こそうとした上半身は痛みにあえなく沈んだ。
痛い。
そりゃもうあっちこっちが痛い。
死ぬほど痛い。
どうしてこうなったんだ、と脳みその中をあれこれ物色する。
昨日のこと、路地裏で出会った男に手当てするからと手を引かれ、
辿り着いた先は安っぽいホテルで。
「こういうトコ、人目憚るのにちょうど良いんだよね」
そんな言葉を疑いもせずに大人しく怪我の手当てを受けて、有料の酒を引き出して飲んで。
それからの記憶はうっすらとしかない。
どうする?延長しとく?一応オレ金持ってるから大丈夫だけど。
そんなふうに形だけでもこちらを慮る言葉に、おう、とだけ返す。
喉も痛い。
もう何故なのかとか考えたくない。
「ま、一番意外だったのはそれだけんね」
指差されて、やっと自分が全裸であることに気付いた。
全裸であるということは、衣類を身につけていないということだ。
どの部分の肌も余すことなくその見えない目の下に晒されているということだ。
「カワイーね、それ」
指が向いているのは灰崎の背中だった。
其処には、ずっと、隠したかったものが鎮座している。
これを見られたくなくて、ずっとどんなセックスだって、
どんな良い女を相手にしたって着衣のまましてきたというのに。
こんな、奴に。
カッと昇ってきたのが怒りだったのか羞恥だったのか、最早分からなかった。
「それ、カカポでしょ。飛べないオウム。デブの。
今は絶滅危惧種なんじゃなかったっけー、
足遅いしいい香りするから場所バレバレだし、危機管理能力っての?
そういうのうっすいんだっけね。原産はニュージーランドだっけ」
「博識だな」
「頭は良い方だって自覚してるよ」
不敵、という言葉が似合うな、と思う。
へらへらと笑いながら、またその前髪野郎は近付いてくる。
「お前にお似合いだよ」
鼻と鼻が触れ合いそうな距離、そういえばまだ名前も知らない、と思い出した。
「ね、キセキになれなかった灰崎祥吾クン」
聞こうと開いた唇は、息を飲む音に変換される。
なんで、と問おうとした唇はそのまま、接吻けで塞がれた。
20140907