ぴかぴかめがね



部活のない放課後、古橋家には山崎が来ていた。
誰もいないから、と付け足したのは別にやましいことがあった訳ではなく、
この間の約束に対する条件を果たしてもらおうと思ったからだ。

「ほらよ」
古橋家の居間で山崎が上着を脱ぐ。
あまり陽にさらされたことがないのだろう、筋肉質なその背中は思ったよりも白く見えた。
霧崎ではプールの授業がないのも、理由の一つなのかもしれない。
その白い背中にぽつりと浮かぶ黒。
肩甲骨の付け根から生えている小さな黒っぽい羽根。
虫、のように見えた。
翅翼種なのだろう。
「トンボか?」
「良く分かったな」
チョウトンボっつーんだって。
そう言った山崎の羽根は、青や紫にてらりと輝いていた。
四枚あるうちの上の二組の羽根の先だけが透明になっていて、なるほど確かに蝶のように見える。
「初めて見た」
「俺も実物は二、三回しか見たことねーわ」
「珍しいのか?」
「どうだろ、そういう話は聞かねぇけど、別段有名でもねーよな」
「触っても良いか?」
「どーぞ」
そっと触った羽根は見た目よりもでこぼことしていた。
そしてやっと、それが先ほどからぴくりとも動かないのに気付く。
「機能は…」
「もうねぇけど、引っ張ったりはすんなよ」
流石に付け根とかは痛いから、そう付け足した山崎は苦い顔をしていた。
引っ張られたことがあるのかもしれない。
「抜いたりは…しないのか」
「あー…」
山崎がこういった不明瞭な言葉を発する時は、
何かしら言いたくないことがある時なのだと古橋はもう既に分かっている。
「ちょっと、な」
それを追求することは、今はしない。

条件には“時々”と入れてある。
これから徐々に話したくなるように仕向けていけば、問題はないだろう。
「トンボというのは、お前らしいな」
「そうか?」
「ああ」

何を見つめていてもその色に難なく染まっていくなんて。

その順応性の高さこそ山崎の本質だと思っているのを、古橋は口にすることはしなかった。



20131220