この関係に名前をつけよう
もう、逃げないで。
山崎から連絡が入ったのは大学受験も終わって一息ついた頃だった。
会えないか、と一言。
簡素すぎるそのメールを拒絶する理由など古橋には何もなく、返信するは是以外になかった。
返って来た学校の近くの公園で、という文面に疑問を抱きつつも、肯定の返事をして、
それから日時を決めて、その日は終わった。
約束の日。
公園へとやって来た古橋は、既にブランコに座っていた山崎を見つけた。
山崎、と声を掛けようとして息を飲む。
山崎が、手に、持っているもの。
立ち止まった音で気付いたのか、山崎は振り返った。
古橋、と呟く。
「…それ」
「ああ、抜けた」
返って来た言葉は何度も想像したもので、
けれどもそれらのどれとも違ったあまりに乾いて、さらさらとしていた。
古橋は、山崎がもっと、この羽根に執着するものだと思っていた。
鱗粉を持たない翅翼種の羽根はいつか機能を失う。
機能を失えば数年以内に抜け落ちる。
そう遠くない未来、自分はその瞬間を知るのだろう、そう思っていた。
けれども同時に、山崎のことだからうまく隠してしまうかもしれない、とも思っていた。
「受験のこともあったし、連絡するの遅れたけど…お前に、一番最初に伝えたかったんだ」
なのに、山崎はそんなことを言う。
「昔…約束したんだ。
片方はそいつに、そしてもう片方は一番だいすきになるひとに、って」
心臓の打つ音が聞こえるような気がしていた。
今までで一番、緊張をしている。
初めて公式戦でラフプレーをしたときよりも、もっと。
古橋、と山崎は呼んだ。
「受け取ってくれるか」
差し出される羽根。
その意味が分からないほど、古橋は鈍くない。
羽根をしっかりと両手で受け取ってから、
古橋は今まで抑えて来たものをすべて解放するように、山崎に抱き着いたのだった。
20140619