金属バット持ってないだけマシかもしれない


音が聞こえた。

呼ばれるような心地になってそちらへと脚を向ける。
慣れたものだ、どんな奴がいるのか、そんな馬鹿馬鹿しい好奇心と共に。

それが、すべての間違いだなんて知る由もなく。

辿り着いた路地裏は散々なものだった。
ここまで一方的なものはあまりお目に掛かれないだろう、なんて呑気に思う。
「…あれ?まだ生き残りいた?」
前髪で隠れた向こうの瞳が、恐らく獣のようになっているのは見えなくても分かった。
生き残り、という言い回しに笑いそうになるけれども、
流石にふき出すような生命知らずではない。
「ちげーよ」
「だよねー。お前、こいつらとは匂いが違う」
「匂いって。動物か」
「ハハッ。人間だって動物デショ」

後ろで、何かが動くのを感じた。
ほっと右に避ける。
「仲間…か…!」
「いや今の話聞いてろよ」
「ア、ごめーん。取りこぼしてたね」
ぬらっと起き上がってきた男はあちこち血まみれで、
今にも死にそうだな、なんてぼんやり思わせた。
そんな緩さが駄目だったのか、男の手に持っていた破片がこちらの頬を掠める。
物騒だ。
頬だったから良いものを、目とか掠ったらどうするつもりなんだ、とも思った。
まぁ、こんな裏路地であれこれしている時点で、
そういった倫理観みたいなものはフッ飛んでいるのだろうが。
そもそも、こんな自分が倫理などと言うのがお門違いか。
「…いてーな」
「ごめんってー。オレの不始末だし片すよ、退いてて」
「はいはい」
「あとでその怪我の手当てもさせてね~ん」
「別に良い」
「そういわずにっ」

瞬間、男が跳躍した。
めこっという漫画みたいな音がして、破片を持った男がフッ飛んだ。
がらがらがっしゃん!という音で、その身体がぶつかったドラム缶の山が崩れる。
「はいっ完了~。手当て行こっ」

振り返ってそんなふうに笑うその顔に、なんだか暗殺者みたいだな、そう思った。



20140907