好奇心は龍をも殺す



たとえば、こんなはじまり。
「あー…えっと、今吉か?」 見覚えのある顔を見て最初に出て来たのはそんな言葉だった。 見覚え、と言ってもそれはこちらが一方的に知っているというものではあるが。 花宮真。 無冠の五将の悪童として有名なバスケットボールプレイヤー。 バスケを数年やっていればキセキと並んで嫌でも耳に入ってくる名前だろう。 勿論、その評価は良いものだけではないが。 それでもなんとなく花宮をバスケプレイヤーとして嫌うことが出来なかったのは、 もう一つもっと身近なところに情報源がいたからだと諏佐は思っている。 「…あの人、何か言ったりしてるんですか」 これでもかと眉を寄せた表情に雑誌に載っているような品行方正さは微塵も見当たらなくて、 諏佐は思わず笑ってしまった。 あからさまにむっとしてみせた花宮に悪い、と形だけの謝罪。 「時々話に出て来る。えっらい賢い後輩がいるんやでー、て」 「…まさかとは思いますけどそれ、今吉さんの真似ですか」 「似てなかったか」 「そうですね、控えめに言っても全然」 「それ全然控えめじゃないよな」 苦笑して携帯を取り出す。 ワン、ツー、スリーコール目で出た今吉に、花宮来てるぞ、と告げると、 慌てた声で委員会の仕事が長引いているのだと告げられた。 それから二、三話して、 「何か俺が引き止めておくことになった」 結局、仕事を押し付けられてしまった気がする。 「…そうですか」 花宮はそう、つまらないそうに返しただけだった。 「かっこいいな、それ」 何も喋らないのもあれだと思い、何か話題を、と考えた末に出てきたのはそんな言葉だった。 バスケという共通の話題は存在するが、相手があの悪童である以上それは地雷すきるだろう。 ならば、と思えばやはりその背中の羽根は目に付くもので。 「片翼ですよ」 不機嫌そうに花宮が返した。 この世界には羽根を持った人間がいる。 翼人種と呼ばれるその割合は全人口の三割程で、 その中でも花宮のような薄い羽根は皮翼種のコウモリ翼と呼ばれていた。 自己申告の通り、それは片方しかないようではあったが、 皮膜の割合が少ないながらも大きく、きっと翼開長は目を見張るほどであると推測出来る。 第二趾の部分には保護キャップをつけているようではあるが、 見慣れない鉤爪が見えた。 正直、かっこいい。 「生まれつきか、とか聞いても良いか?」 「アンタ、顔に似合わず遠慮がないんですね」 もっと大人しい人間かと思いました、 そう続ける花宮だって大人しげな顔をしている癖に、と思う。 「事故ですよ。 穴が開いちゃって修復不可能だったんで、ひどいことになる前に切除したんです」 「そうなのか」 「聞いといてその反応はないでしょう」 じとりとこちらを睨みつけてくる花宮に、諏佐は小さく唸ってみせた。 「んーと、じゃあ、“可哀想に”」 予想通りその言葉が気に入らなかったらしく眉が釣り上がる。 「悪い悪い、待たせたな〜」 殺伐とした空気の中に、敢えて空気を読まなかった今吉が突っ込んでくる、五秒前のことだった。
20140106