煩雑スタートライン



部活のない日の放課後、校舎を出たところでその顔を発見して諏佐はぱちくり、と目を瞬かせた。
「どうしたんだ」
今吉に用事か?と言いかけると、がっと胸ぐらを掴まれる。

「アンタが翼人だったなんて知らなかったんですけど」
「あれ、そうだったか」
そんなことを言われるとは思っていなかったため、きょとん、とした顔になってしまった。
「でも別に羽根がある訳でもないし、わざわざ言うことでもないと思うんだが」

諏佐をこの世界の分類で表すのならば、確かに翼人種というべきなのだろう。
この世界で羽根を持つ人間の総称。
その中でも更に分類するのならば皮翼種の龍翼になるのだろう。
しかしながら、諏佐の背中には羽根がない。

遺伝子欠損。
病院ではそう診断された。
諏佐の背中には少しばかりの龍の鱗があるだけで、
羽根は成長しないだろうと医者に言われたらしい。
幼い頃はそれが少しかっこ悪く感じて、親にどうして、と聞いたこともある。
しかし、それは成長と共に緩やかになっていき、
今では逆にちょっとかっこいいいとも思っているくらいだ。

それを簡単にまとめて花宮に告げると、少しだけ力は緩まったようだった。
けれども完全に、とはいかないようで、胸ぐらは掴まれたままである。
「オレは、」
一瞬、その瞳が艶やかに揺れたようにも思えた。
「オレはアンタが好きなんです」
爛々と輝く瞳が逃がさない、というように諏佐を貫く。
「好きな相手のことを他の男から教えられるなんて屈辱なの、分かってくれますよね?」

ぱちり。
瞬く音。

ええと、と場を繋ぐように出た声は思っていたよりも間抜けに聞こえた。
「俺、男だけど」
「知ってます」
「背も高い方だし女っぽさとかないけど」
「知ってますって」
「あ、もしかして逆か」
「違います」
「え、違うの」
「違います!でも、それでも好きなんです!!」
がくがくと揺さぶられ、思わず零れたのは苦笑だった。
「花宮って頭良い割りには告白の仕方は雑なんだな…」
もっと慣れてそうなイメージだった、と呟けば、初めてその眉尻が困ったように下げられる。
「…それだけ必死だって、分かってくださいよ」
しおらしいその態度はやはり諏佐が見たことのある花宮からはかけ離れていて、
また、ふっと笑みが漏れた。
「かわいいな」
「馬鹿にしてんですか」
「まさか」
少しばかり下に位置するその頭を一撫でして、額に接吻けを落とす。
「これから、よろしく」

暫くの間呆然としていた花宮が我に返り、
諏佐の唇に比喩ではなく噛み付いて流血沙汰になるのは、また別の話。



20140106