僕が君に与えるすべて
愛なんて生ぬるい。
君の構築するすべてを、僕に、ください。
「いっ、て!!」
「ああ、やっぱり痛いんですね」
悪びれもせずにそう言った花宮に流石に腹が立って、
諏佐は振り向きざまに一発、拳をお見舞いした。
「…お前さ、収集癖でもあんの」
なんだっけ、トロフィーマニアって言うんだっけ、そういうの。
痛みに顔を歪めながら諏佐は独り言のように問うた。
先ほどの拳は残念なことに、それを予想していた花宮に受け止められてしまったが、
その受け止めた手には相応の痛みが行ったようなのでとりあえず報復は成功だ。
勿論、諏佐の背中はそれ以上に痛いと断言出来るのだが。
諏佐さんの背中の鱗が見たいです。
やたら真剣な顔でそう言ってきた恋人の願いを無碍に断ることもないと思い、
其処が花宮の自室だったこともあって、諏佐はすぐに服を脱いで背中を晒した。
その結果が背中の痛みだ。
一枚一枚の鱗を丁寧に触っていた指が、
次の瞬間それを引っぺがすという凶行に及ぶなど、誰が思うだろう。
「何でですか?」
血出てきたので、手当てしますね、と救急箱を出してきた花宮に、
当たり前だ馬鹿野郎、と返して大人しく手当てをしてもらう。
「そのさ、初恋の相手のだって羽根だろ、あれ。
これだってまぁ、形は違うけど羽根の一部みたいなもんだし。
お前ってこう、人の羽根集める趣味でもあんの」
軟膏どれがいいんだろう、と悩んでいるらしい呟き。
暫くして決まったのか、何かが背中に塗り込まれた。
しみないもので良かった、と思う。
これ以上痛みを上乗せされたら、今度こそ本当に一発入るまでやるしかない。
「違うと思います」
どうやらガーゼを貼りながら考えていたらしい。
「違うのか」
「ええ。
まぁこれも綺麗だとは思いますけど、別に収集癖はないです」
「じゃあ何で俺の鱗は剥がされたんだよ」
気まぐれだとか言われたらもう一発だ、なんて思っているのが伝わったのか、
殴らないでくださいね、と言われた。
それはお前の答え次第だ、と返す。
「…オレは、」
手当ては終わったらしい。
肩甲骨の間に接吻けるような近さで花宮が囁く。
その唇が奇妙に震えているのが分かった。
「オレは、アンタのいろんな顔が見たい」
思わず振り返る。
あだ、という潰れたような声からどうやら鼻をぶつけたらしいが、そんなことは知らない。
絡まった目線は捨てられた子猫のようだった。
「オレは、アンタのいろんな可能性を見たいんです。
アンタが、相手がオレで良いのかって馬鹿な迷いを持つ前に」
ぱち、り。
ゆっくりと瞬いて。
諏佐ははぁ、と盛大にため息を吐く。
花宮はその頭脳故に諏佐を馬鹿にすることが多いし、諏佐もそれは許容しているけれど。
今回はだめだった。
先に宣言してあるから大丈夫だ、と意味のない言い訳を心の中でだけして、
諏佐は手を振り上げた。
花宮の、それこそ馬鹿な迷いを吹き飛ばしてやるために。
勿論、花宮が黙って殴られてくれる訳がなく、
やってやり返してを双方の気の済むまで続けることとなり、
翌日機嫌の悪い諏佐からその話を聞いた今吉に大爆笑されるのは、また別の話なのである。
20140111