青い檸檬
初恋の味なんて忘れるくらいの、衝撃的な愛をいつか獲得しよう。
ぼすり、と背中から伝わる衝撃に、けんたろ、と弘はその名を呼んだ。
待ち合わせ場所の公園。
お客さんが来てるから先行ってて、そう言った幼馴染が来たことなんて見なくたって分かる。
しかし、幼馴染はぎゅっと抱きついたまま、その力を強くするばかりで一向に応えない。
「…けんたろ?」
その様子が可笑しいと気付いて、恐る恐る声を掛ける。
どうしたの、だいじょうぶ。
振り返ろうとしているのが分かったのか、その腕が少しだけ緩んで、
弘がくるりと一回転すると、またぎゅっと抱きついてきた。
「…羽根がぬけたら、くれないか、ってなんかえらいひとに言われた」
瞬く。
「羽根って、けんたろの羽根?」
「うん」
幼馴染の羽根はとてもきれいだ。
いつも見ている弘はそれを知っている。
キバネツノトンボという名前の虫と同じ形をしたその羽根は、大人になると抜けてしまうらしい。
それを知った時はなんだかとても悲しくて、
耐え切れなくて大泣きしてしまったことを覚えている。
「けんたろの羽根、きれいだから?」
「ううん、めずしいから、だって」
「めずらしい?」
「あんまりないってこと」
弘があまり良く分かっていないと気付いたのか、
少し身体を離して、幼馴染はいつものように丁寧に教えてくれた。
キバネツノトンボは今、とっても数が少ないのだということ。
絶滅(これは弘も知っていた。いなくなってしまうことだ!)してしまうかもしれないこと。
絶滅してしまえば彼のように、人間の羽根として生えてくることもなくなること。
偉い人はその羽根が失くなってしまう前に、取っておきたいらしい。
勉強のために、それを使いたいんだそうだ。
「オレさ、自分の羽根、これでも気に入ってるんだ」
落ち着いたのか、幼馴染はその距離を保ったまま呟いた。
それでもまだ心細いのか、その手は弘の手をぎゅっと掴んだままだ。
「だから、羽根だけが欲しいやつにはくれてやんない。
オレが、大事だと思ったひとにあげる」
幼馴染は真っ直ぐに弘の目を見つめる。
「ひろしに、半分あげる」
もう半分はオレが一番だいすきになるひとのために、とっとかせて。
繋いでいるところから急激に冷えていくようだった。
幼馴染の言うことは間違ったことなどない、ならば、これが正しいのだ。
そう思って息を飲み込み言葉を捻り出す。
「じゃあオレも、半分はけんたろにあげる」
笑えたと思っていた。
「そしたら、もう半分は一番だいすきになるひとに、あげることにする」
けれどその強がりも賢い幼馴染の目にはお見通しだったようで、
もう一度ぎゅっと抱きしめられた。
そうしたらもうたまらなくなって、溢れる涙をそのままに抱きしめ返す。
いつの間にか幼馴染も泣いていた。
このままじかんがとまればいいのに。
そう願ったけれども、きっとそれは叶うことはないのだと、弘にだってちゃんと分かっていた。
20140121