三時前のお茶会
嘘でも良いから運命って言ってよ。
「あ」
何処かで聞いたことのある声だと思って顔を上げると、色の違う双眸がこちらを見ていた。
「…京都の時の」
「あの時はどうも」
にこやかに微笑まれたので、とりあえず会釈を返しておく。
関わるのもあれだと思い、じゃ、と片手を上げて去ろうとすると、あの、と声が上がった。
控えめに服の裾を掴まれる。
「もし良ければお茶でもしませんか?」
見上げてきた目は穏やかながらこちらが逃げないことを信じきっており、
いつもならばそんな目をする人間は気に障るはずなのに、
それを振り払うのも何故だかひどく戸惑われたのだった。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。俺は赤司征十郎、高校一年生です」
洒落たカフェの端の方の席に座って一息。
飲み物を注文し終わったところで少年、赤司はたった今思い出した、とばかりに手を打った。
「オレは瀬戸健太郎、高二」
花宮が聞いたらあの特徴的な形の眉をこれでもかというほど潜めそうだ、なんて思いながら返す。
どうせ、赤司はこちらのことなど知らないだろう。
ならば、バスケの話題を出さないようにすれば良いだけの話だ。
バスケに触れない話などたくさんある。
その中から赤司の好みそうなものを選んでやれば―――瀬戸の思考を遮って、赤司の唇が動いた。
「瀬戸さんは、綺麗ですね」
一瞬、脳が回転を止める。
「…ああ、羽根のこと」
「いえ、羽根もそうなんですけど、瀬戸さん自身のことを言っています」
お世辞にしてはその言葉はいやに真っ直ぐで、半眼になるのも躊躇われた。
とりあえず、と言ったようにドーモ、と礼を述べる。
「そんなこと初めて言われた」
「そうなんですか?」
きょとん、とした目が瀬戸に注がれ、それから赤司はああ、と呟いた。
「瀬戸さんの綺麗さは自然だから、気付ける人が少ないんですね」
しみじみとした物言いにぶは、と思わず吹き出す。
驚いたのか目をぱちくりとさせる赤司に、
悪い、と謝ってから一口、落ち着ける意味も込めてコーヒーを飲んだ。
「久しぶりだったから。次に何言うか分かんねー奴に会ったの」
「…それは、褒められてはいませんよね」
「いんや、褒めてるよ」
久しぶりに楽しくて笑ったような、そんな心地がしていた。
「また、会って頂けますか?」
会計を済ませてカフェを出る。
見上げて来た瞳は先ほどのものとは違った。
「いーよ」
なんてことはない、ただ気が向いただけだ。
そう自分に言い訳するように胸の底で呟いて携帯を出す。
アドレス帳の上の方に君臨するその名前は、妙に子供っぽく、踊っているようにも見えた。
20140128