脅迫ブックマーカー
お前の秘密はオレが何処までも持って行ってあげるよ。
今日誕生日なんでしょ。
日付が変わって携帯が鳴ったと思ったら、相手は名乗る前にそう言った。
「そう、だけど」
今更教えてないはずなのに何で知ってる、なんてことは口にしない。
ほぼこちらの意志なんて関係なしに付き合うことになってしまった時に、
原一哉という人間には若干のヤンデレ属性があるというのを、灰崎は知っていた。
知ってしまった、と言うべきだったのかもしれない。
『すぐは無理だけどさ』
「あ?」
何処か電話の向こうの声はうきうきとしているような気がした。
『プレゼント用意してるから』
「…そうか」
『次帰って来る時連絡してね』
「いつもしてんだろーが」
それでも、連絡を怠ったことはないのだから、
それが恐怖以外の感情で成り立っているのだから、灰崎も別段この関係が嫌な訳ではないのだ。
そういうことがあったので、
帰省時に駅まで迎えに来た原がいつも以上に楽しそうにしているのにも違和感は抱かなかった。
「良いカフェ見つけたんだ。裏通りにあるこじまりしたとこ」
お前、そんなナリなのに人目気にするからね。
馬鹿にしたように笑った原に、灰崎は何を言うこともなくついていく。
人目を気にするのは確かに元々だったが、
原が一緒にいるからだということも、彼は分かっているだろうか。
また色の変わった後頭部を見つめながらぼんやり思う。
原と一緒にいるのを見られたくない訳ではなかったが、
灰崎以上にあっちこっち好き嫌いなく喧嘩を売って歩く原には敵が多い、とても多い。
そういう輩に邪魔されたくはなかった。
ついた先は原の言うとおり大通りから離れた場所にあって、
所謂隠れ家的カフェのようだった。
中も仕切りがしっかりしていて、半個室状態になっている。
これならば、ゆっくり過ごせるだろう。
「あ、で、ハイ。これ、今日の本題」
案内されたテーブルについて飲み物を注文すると、原は鞄の中から袋を取り出した。
若干端が折れ曲がったりしているそれは、どうやら文具屋で買ったらしい。
店の名前が印刷された白い紙袋は掌にすっぽり収まる程度で、とても軽かった。
「開けなよ」
促されてテープに指を掛ける。
包装用でも何でもなく、
ただセロテープで止めただけの袋は、うまく開けられなくて少し破けた。
へたくそ、と向かいで笑い声が上がる。
中に入っていたのは、栞だった。
「お前、顔に似合わず本読むでしょ」
その言葉に良く観察している、と思う。
「だから栞。良いチョイスでしょ?」
「…ああ。ありがとう」
プレゼントは嬉しかった、それが栞であったことも嬉しかった。
デザインはシックなもので持ち歩くのにも苦ではないし、
割合しっかりしたつくりのようなので長く使えそうだ。
問題は、その色合いだった。
灰崎がそれを気にしているのが分かったのか、にいっと唇が歪められる。
「ちゃんと使ってね」
落ち着いた黄緑を基調とした栞だった。
アクセントであろう、所々に掠れた黄色が散っている。
それは、灰崎の背中にあるものを否応なく思い出させた。
灰崎が隠しておきたい、その羽根のことを。
「それ見る度に、オレがお前の秘密を知ってること、思い出すでしょ?」
楽しそうな恋人に、思わずくそ、と悪態が漏れる。
それでも手の中の栞をどうこうする気になれないのは、
物は大切に、と幼い頃から叩き込まれた精神の所為だと、そういうことにしておきたかった。
20141106