一度きりでもいいから



重荷を背負った貴方はどれほどに美しいだろう。 (しかしそれはゆめまぼろしでしかないのだ!)
昔の自分はこの背にもうない翼のことを、ただひたすらに思い続ける人間のことを嗤っていた。 そう、花宮は思い出す。 残っている方の翼を撫でることもしないで、ただ羨望と落胆の入り混じった、 そういう気持ちの悪い視線でもって花宮を見るものだから、ただそれが哀れで、嗤っていた。 「…佳典、さん」 「ンだよ」 疲弊した声は、それでも芯を失わないで凜と響いてみせた。 手を伸ばして掻き抱くようにしても抵抗一つしないのは、 先ほどまでの行為で声の通りに疲れきっているからだろう。 何故俺が下なんだとそういう諏佐のプライドのために、毎回花宮は手を下す。 拳だったり、足技だったり、 兎にも角にもそれが一般的な幸せ満杯ピンク色をしているかと問われれば、 迷わず首を振るような、そんな行為だ。 疲れもする。 正しく恋人であるはずの相手との行為がそんなもので、しかも毎回で、虚しくはならないのか。 以前そう花宮に問うたのは原だったか。 花宮に恋人が、しかも男の恋人が出来たというのが非常に面白いらしく、 定期的に彼らは近況を聞いてくる。 愚痴ついでに惚気を吐き出すため(言うまでもなく後者の割合の方が断然多い)、 花宮も聞かれたことはそのまま答えていた。 その流れでの、その質問。 悩むまでもなく、花宮は言った。 「ならねぇよ」 確かに喧嘩のようだと言われればそうだと思う。 しかしながらその先に、どう足掻いたって愛なんてものが存在する限り、 どうしようもなく暴力的な行為だとて、幸せになり得てしまうのだから笑ってしまった。 恋は盲目とは良く言ったものだ。 そんなふうにして背中に回った指で、そっとその肩甲骨の付け根を撫ぜる。 諏佐は何も言わない。 以前無理矢理剥がしたところはもう分からなくなっていた。 かさぶたさえ見当たらない。 つるつるとした硬い鱗に指を這わせながら、花宮は夢想する。 「花宮」 何を感じたのか、尖った声が飛んできた。 無視をする。 此処から形成されなかった五本目と六本目の腕が伸び、 肘、竜支骨の先、親指、人差し指、中指が宙を掴む傍ら、 長く伸びた薬指がその薄い皮膜を張り、ずらりと並ぶ鱗たちを支えている。 瞼の裏に浮かぶようだった。 知識として知っているからではない、 こうして一つになった余韻なのか、それともただの独り善がりの妄想か。 「はなみや、」 その声に困ったような響きが入り混じりはじめて、空洞なはずの胸が疼いた。 おんなじだ、と思う。 おんなじだ、あの人とおんなじだ。 ないものへと憧れ、どうしてないのかと子供のように問うて困らせるような、 そんな目をしてしまっていると花宮は分かっていた。 見られたくなくて更に強く抱き締める。 「…まこと」 諦めたように、あやすように、 紡がれた名前になんだかとても腹が立って、花宮は目の前の首筋に噛み付いた。
4×7の日診断メーカー
20140407