棺の横板は外しておいて 今花

 花宮真は実のところ、自身の先輩を馬鹿だと思っていた。その人はいつだって花宮の先を行くような、人の心理を読むことにだけやたらと長けた最低の男で、花宮の一つ上で、たった今約半年とほの二つ上期間に突入したところであったのだが―――さて。やはり花宮は今目の前にいるその人のことを馬鹿だと思った。心底馬鹿だと思った。きっとこれも読まれているのだろうが、それでも妙にひどく真面目な顔をしてみせるその人にはぁ、と大きなため息を吐いて仕方なく問う。
「何か欲しいものでもあるんですか」
「花宮には多分一生かかってもワシにはくれられんもの」
即答かよ、と思う。やっぱり回答は用意されていた。花宮が聞くのを、この性悪男は待っていたのだ。花宮は蜘蛛だと称されることがあるが、この人は蛇だ。いつだって獲物がその口の前にやって来るのを、そこで力を抜く瞬間を、今か今かと待っている。
「なァ、花宮」
はあ、と今度は向こうがため息を吐いた。
「お前の全部、これからの全部、ワシにくれ言うたらお前、どないすんの?」
 ぜん、ぶ。
「ワシに、全部、くれるん?」
細い瞳がゆらゆらと、花宮を見つめていた。
「…弱気なアンタなんか見たくねえよ」
「ここは見れてラッキーっちゅう顔するとこやない?」
「いつもと違ったモン見ると不吉の予兆かと思うのが人間なんだろ」
黒猫だとか、靴紐が切れただとか。そんな、当たり前のことを言うなんて、吐き気がするけれど。
 誕生日なのだ、少しくらい気を使ってやってもバチは当たらないだろう。
「…なんだぁ」
その声に失望を含まれない。ただ、おかしそうな響きだけ。
「花宮も人間やったんやな」
子供のように。
「人のことなんだと思ってんだよ妖怪」
 ずい、と近付いたら鼻と鼻がくっつきそうになった。あるのかないのか分からないような瞳に、花宮が映り込んでいるのが分かる。
「やるよ」
にい、とそれが三日月の形を描いたのを確認して、
「だって誕生日だろ」
全部仕組まれたことだったと答え合わせをしてから、その唇に噛み付いてやった。



今吉さんお誕生日おめでとうございました



20151127