意地でもそれで死んでやる:今花



お前に殺されてなどやらない、何故ならお前はオレが殺すのだから。
「お前は死んだりなんか出来んよ」 そう言ったその人はとても楽しそうで、ひどく、腹が立った。 別に死にたい、と口に出した訳ではない。 しかしこの人間離れしたこいつには口にせずとも届いてしまうらしい。 ロマンチック?笑わせるな。 人の心を勝手に読むだけのそれの何処にロマンなんか感じたら良いのか。 じとり、と睨む。 数センチの差はひどく埋め難く、僅かに高いその目線が面白そうにこちらを貫く。 むかつく。 そう思って向こう脛を蹴ろうとするもお見通し、と言わんばかりに避けられる。 ついでにやり返される。 突然の痛みに悲鳴を上げて思わず蹲った。 とんでもない、この野郎。 弁慶の泣き所と言う別名さえついているこの場所は人間の急所だ馬鹿。 視界が歪むのを感じる。 ひっこめ、くそ、蹴られて泣くとか子供か。 膝頭に額を擦り付けるようにして誤魔化す。 よし、顔をあげようとしたら泣くなて、ワシが悪かったから、と言葉が降ってくる。 「泣いてません」 「なんだ、そうなん」 残念そうな響きすら見せずに残念そうにそう呟く。 バレてることもきっと計算済みで。 何もかも一つ上を回られているようで本当に腹立たしい。 「そうそう、さっきの話なんやけどな」 また蒸し返す気かクソが。 「お前は死んだりなんか出来んっちゅーやつ。 ワシかて根拠もなしに言ってる訳ちゃうねん」 響く痛みが治まってきたのを確認して立ち上がる。 腕を組む。 見下してやりたいところだが如何せん身長が足りなくて出来ない。 非常に残念だ。 しかし下からだとて見下すことは可能だ。 精一杯の侮蔑を込めて視線を突き刺す。 おお怖い、なんておちゃらけた口調が返って来た。 やっぱり一度死ね。 「お前はな、怖がりなんよ」 はぁ、と息を吐く。 「痛いのも怖いのもだめ。 本当は一人じゃなーんも出来ない、そんな子なんや」 馬鹿にされているのがひしひしと伝わってくる。 とりあえず話は最後まで聞いてやろう。 それから殴る。三発程。 「でも死んでみたいなぁ言う願望だけはあんねんから、絶対死なない方法で死のうとするんや。 豆腐の角に頭ぶつけてみたり、蕎麦で首吊ってみたり、なぁ」 そうやろ?と歪むその唇が近付いてくる。 避けることはしない。 避けたらまたこの人が笑う要因を作るだけだ。 「ワシがずうっとそれ、蕎麦にしといたるから」 直々にうったるわ、とクスクス耳朶を擽る声を払いのける。 「ばっかじゃねぇの」 歩き出す。 常に人の首元に手をかけているような人間が、言う台詞ではないと思った。
即興小説トレーニング お題:永遠の蕎麦
20130309