知らぬは本人たちのみ



派手な音がした方向に、ため息を吐きながら諏佐は向かう。
こういった音の元凶は決まっている。
「またお前か、青峰」
慣れ親しんだ母国語で話しかければ、返って来るのは獰猛な笑み。
監督生である以上、この問題児をどうにかしなければならないが、
如何せん相手は減点如き、痛くも痒くもない男だ。
寮の点をひたすらに減らしていくという点においては、
敵寮であるはずのグリフィンドールに同情したくなる程である。
事実、どれだけ稼いでも青峰が減らして行くので、
グリフィンドールはここ数年最下位を独走中だ。
「来てくれて嬉しいぜー…すーさーさァんッ!!」
脱力した状態から突如振られた杖に、諏佐が咄嗟に対応する。
「うわ、無言呪文とか」
青峰の放った瓦礫は見事、諏佐の生み出した盾に阻まれる。

こうして青峰が何かをやらかして諏佐を誘き出し、決闘を始めることはいつものことだ。
最初こそは年上なのだからもっと上手く対応しろと教師陣に叱られ、
スリザリン寮から点をごっそり引かれたりしていたものの、
今や諏佐は青峰に対してのみなら廊下で魔法を使うことを許す、という特例を勝ち取っている。
というのも、叱責や減点があまりに理不尽だと感じた諏佐が、
徹底的に青峰を避けに避け、それが一ヶ月以上続いたところ、
それが気に入らなかった青峰が諏佐の学年の授業を妨害するという暴挙に出た為である。
同じ日本出身で、同寮で級友の今吉なんかは大爆笑していたが。
勿論青峰はこってり叱られたのだが、それで懲りるような奴ではなく、
退学にするかしないかで教師陣vs青峰という世にも恐ろしい争いが行われたあと、
諏佐はやっと重い腰を上げたのだった。
自分が相手をするから、青峰に対抗する許可をください、と。
そういう訳で、青峰の気が向いた時に月二回程、諏佐は彼の相手をしてやっている。

呪文の飛び交う廊下を、他の生徒はただ遠巻きに見ているだけだ。
最初こそは人を巻き込んだり何だりで本当に大変だったが、最近はそれもなくなってきている。
「コンファンド!!」
「エクスペリアームス!」
ばちり、と閃光が空中でぶつかって、
「―――ッ!!」
青峰が、競り負けた。
杖が吹き飛ぶ。
その隙を逃す諏佐ではない。
「アクシオ、青峰の杖」
素直に飛んできた杖を華麗にキャッチして、青峰に向き直る。
「インカーセラス、縛れ」
「うぐ!?」
青峰を縛り上げてから諏佐は辺りを見回して、ため息を吐いた。
青峰が爆破系の呪文ばかり使ってくる所為で、廊下はめちゃめちゃだ。
レパロ、レパロ、ととりあえず手近なものから呪文を掛けていくが、全て戻るのかどうか怪しい。
「お疲れ様でした、ミスター・諏佐」
「教授」
「あとは私たちがやりましょう。怪我は?」
「ありません」
「よろしい。それにしても見事な杖捌きでした、スリザリンに10点」
経緯はともかく、褒められて悪い気はしないので笑顔を返しておく。
「さぁ、次の授業に遅れてしまいますよ」
教授に急かされて、落とした鞄を拾って今吉と合流する。
「おー諏佐、お疲れさん」
「ん、ほんとに疲れた」
「次魔法史やで。寝るか?」
「うー…悩む」
そんな会話をしながら次の教室へと向かった。

「ミスター・青峰。貴方は校長室です」
「へーいへい」
きっちりと縛り上げられたままの青峰を浮遊させ、教授は校長室へと向かう。
「構って欲しいのならそういえば、ミスター・諏佐は拒まないのでは?
恋は素晴らしいものですが、いい加減、学校を壊すのは止めて下さい」
さらっと付け加えられた言葉に、青峰が絶叫するまであと三秒。




20121122