碧落の惑星 諏佐+桃

*シングルファザーパロ

 死の概念というものを、子供にどう説明したら良いのだろう。ぎゅっと自分の手を握って離さない幼子と一緒に墓石の前に立ち、諏佐はそんなことを考えていた。誤魔化す、という選択肢は最初からなかった。子供というのは存外大人が思うよりも聡い。しかし、言葉を噛み砕かなければ伝わらないというのも事実で。喪失というものを噛み砕いて伝えれば、子供は今は理解出来ずとも時間を掛けて理解しようとするだろう。それが家族を失った痛みを癒やすだろうことも想像が吐く。けれども、諏佐はそういったことをしたくなかった。何より、諏佐自身が死というものを喪失として捉えていなかったからだ。
「お母さんは死んじゃったんだよね」
「…そう、だな」
「ねぇ、お父さん」
じっと、そのあたたかな色をした瞳は、今し方綺麗にした墓石を見つめている。
「死ぬって、どういうこと? いなくなっちゃうの? もう全部消えちゃうの?」
やはり、死という概念を理解することは難しいだろう。それが親しい人間のものであったのなら、尚の事。
「わたし、わかんないよ…」
弱々しい声に、諏佐はさつきの言ったことを小さく繰り返した。
―――全部、消えちゃう。
「お父さんが聞いた話では、何処か宇宙の彼方に死んだ人が行く惑星があるらしい」
 それは違う、と思ったすらり、言葉が溢れ出した。
「地球に自分のことを憶えている人がいる限り、その人はその惑星にいられるんだって」
「わくせい…」
ああ、と頷く。
「お父さんはお母さんがその惑星で、お父さんとさつきを見守っててくれるんじゃないかなって思うんだけど、さつきはどう思う?」
さつきは暫く考えていた。
「………そうだったら、とても、素敵だと思う」
誤魔化したつもりはなかった。
 死というのは別離だ、だがしかし、喪失ではない。諏佐はそう思っている。だからさつきにも、そう思って欲しい。
「お母さんがいなくて、わたし、さみしい。でも、何処かのお星様でお母さんが見守ってくれてるっておもったら、頑張れるもの」
「そうか」
微笑むと、小さくまた手が握り返された。
 さみしいという感情と、これからどうやって向き合って行こうと、何処かの惑星からそれがうまく行くように願っていてくれと、そう祈った。



image by「いま、会いにゆきます」市川拓司



20160922