光って消えるだけなら良かったものを 結局君は甘えてるだけなんだよ この関係がなんなのか、と問われて花宮真は真面な返しが出来るとも思っていなかった。どうしてこうなったのだろう、高校時代、因縁の相手。人の楽しみを勝手に奪って否定した男の後輩、馬鹿がつくくらいのお人好しであとついでに馬鹿でどうしようもなくて。 「あっ、お前は…!」 街中で偶然出会ってしまって指をさされた時、こいつはそういう教育がなってないのか、と憤りたい気分になったけれど。そういえば帰国子女だというようなことを聞いた気がする。そうであるなら文化の違いか、英語圏は広いので、イギリスの方のマナーならばまだしも、アメリカの方のそれには疎かった。そんなことを考えていたものだから花宮は、その時に指摘することをついうっかり忘れてしまって、そのまま訂正出来ずにいる。 「ティアドロップの!!」 正直。 もっと何か言うことがあるだろう、と思った。花宮は自らの楽しみのためにこの馬鹿の先輩の膝を壊して、痛め付けて、木吉だけじゃない。他の人間にもやってきた。別にそれを反省などしてはいないけれど。 まあ何にせよ毒気を抜かれてしまった。何を言ってやろうかと用意していた言葉が多分、木吉とは違う意味でこいつには通じないのだと花宮は理解する。 「なあ、あれ、やってみせてくんねーか」 「やらねーよ」 「そう言わずに」 「テスト前で忙しいんだよ。………お前、見るからに馬鹿そうだけど大丈夫か?」 「ハァ!? いや、大丈夫じゃないけどそれは関係ねえだろ!」 「関係あるだろ。監督にメーワクかけんな。監督からの助言は受け取っとけ」 「う。カントクにメーワクは…だめだな。ウン…」 話が逸れたところでさっさとトンズラしようと思っていた、というのに。 「じゃあ赤点回避したら見せてくれよ。ティアドロップ」 話が戻った。 もう花宮は何処から突っ込んで良いのか分からず、とりあえず叫ぶことにした。 「志が低い!!」 こころ、ざし…? と返されて頭を抱えたことはまた別の話だ。 *** お願いだから顔を見せて ヒデー顔、とばさり、と掛けられたのが毛布であることを花宮はぼんやりと認識する。体調が悪かったのは本当だし、その時に火神になんて会ってしまったのは本当に不運だと思っていたのだが、だからと言って家に連れて来られるとは思わなかった。 「家の人は」 「いねー」 「ハ?」 「一人暮らし」 「…へえ」 「あ、死んでねえから。いないだけで」 「別に、聞いてねえ」 「気にしただろ」 「気にするかよ」 寝ないのか、と問われて寝るわ、と返す。いや、こんな初めて来たような場所で、ソファだし、敵の掌の上で、それを言ったら花宮にとっては世界のすべてが敵なのかもしれなかったけれど。 うと、と目蓋が落ちていく。毛布から、知らない香りがする。 家に連絡入れた方が良かったか、と思いながら、そのまま眠りに落ちていった。 *** 徒歩15分、最寄駅から3分 ほらよ、鍵。 そんな言葉で渡されたのは確かに鍵だったがそういうのはこれから大学進学によって一人暮らしを始める、花宮が渡すものではないのだろうか。 「………ああ」 「で、お前のは」 「ア?」 「ハナミヤ、センパイ、のは」 「テメーのそれ、結局定着しなかったな…」 元々先輩後輩のクソみたいな上下関係には収まることの出来そうにない人間であるとは思っていたが、それはそれとして出来るようになるのか、花宮が躾けることは出来るのか、少しだけ興味があったというのに。 ここまで惨敗になるとは。 何も関係がないのにあのクソメガネの先輩が笑っている気がする。 「ていうか、欲しいのかよ」 「う、ん?」 「いらねーなら欲しがるな」 「いらねー訳じゃねーよ。ええと…交換? のが言い訳とか、立つだろ。こう、先輩たちに」 「………アイツら、なんて言ってんの」 「そのうち壺買わされるぞって言われた」 流石にそれにはふき出した。 「え? 言うことにかいてアイツらそれな訳?」 「だからオレはお前から壺は買わねー」 「意味分かってねーじゃねーか…誠凛の教育どうなってやがる…」 「少なくともお前よりはセンパイだと思ってるからセンパイたちのが正しい」 「そういう話してんじゃねえんだよ!」 結局鍵は交換した。 どうせ今まで通りコイツの家に入り浸ることになるだろうに、意味のないことをしてしまった。 *** 絶えない気持ちをおしころして 眠っている。 バスケに限らずスポーツというのはなかなかに体力を消耗する。だから帰ってきて栄養補給をしてばたん、というのはそう、珍しいことではない。 ない、が。 「なんで着替えの途中で寝落ちれんだよ…」 男の上裸なんて見慣れている。質の良い筋肉だって毎日見ている。花宮は霧崎でそういうトレーニングだってやっているし、だからそれは珍しいものでもなんでもないのに。 「………クッソ、」 蹴りを入れる。 「そんなとこで寝てっと風邪引くぞ!!」 「うお!? 強盗か!? ………て、なんだ、花宮か」 「花宮先輩」 「ハナミヤ、センパイ」 「なんでテメーはこういう時だけカタコトなんだろうな…」 それはそれで腹が立つけれども、本当に腹が立つのは。 見慣れているはずの光景に反応しかけた自分自身に他ならないのだ。 *** 世界が終わる前に笑顔を 明日世界が終わるとして、という仮定は我ながらくっだらないものだな、と思いながらも毛布にくるまってゾンビ映画を見ている火神にはくだらなく思えなかったらしい。 「何で今そんなこと言うんだ!? これが明日起こるのか!? ゾンビ!? パニック!? 日本沈没!?」 「最後ちげーの混じってんぞ」 「………感染列島?」 「もっと違くないか?」 一体これまでに何を見てきたのか。映画に興味のない花宮には分からない。 「で、明日世界が終わるとして」 「ゾンビになって?」 「まあそれでも良いけど終わるとして」 「終わるってゼンテイが大事なんだな」 「前提なんて難しい言葉よく知ってたな…」 「オレはなんだと思われてんだよ」 「馬鹿」 返答は一言で済んでしまう。 「お前は何したい」 「えー…マジバ食いに行くかな…。あっでもゾンビだったら家から出ない方が良いのか」 「ゾンビから離れろ」 「画面にめちゃくちゃいるから無理」 「じゃあゾンビで良い…」 「ゾンビなら家にいて、これの続き見て…まあ、お前と一緒にいるんだろうな」 「…ふうん」 「そういえばお前の爆笑顔って見たことねえな」 「今それ関係あるか?」 「明日世界が終わるなら見とかないと」 そうして伸ばされた手に、別に脇腹は弱くない、と言ってやるだけの優しさは花宮にはなかった。 *** 残されたのは君の夢だけ テレビの向こうの人間になる、なんて知っていたはずだ。だから寂しいなんて思ったことはない。本当にそんなことを思っていたのなら花宮は外国を飛びまわることの出来る仕事についただろうし、それを選ばなかったのは自分の判断で、選択で、それを間違ったと思ったことはない。 ―――でも。 携帯が鳴る。初期設定のままにしていたら、つまらないからと勝手に変えられた音。よく知らない音楽。でも嫌いじゃない。 『花宮!』 「うるせえ」 『勝った!』 「速報見た」 『もっと褒めてくれたって良いだろ!?』 「今反省点まとめてるからあとでメール見て一人で反省会でもしてろ」 電話の向こうでぐ、と詰まる火神が、それでもアリガタクチョウダイシマス…と言えるようになったのは、花宮の躾の賜物だった。 *** 蝶々がまた、蜘蛛の巣にからまり墜落した 蜘蛛の巣、なんて言ってたなあ、と思い出す。あれを言い始めたのは誰だったか、古橋辺りだったのか。直接言われた訳ではないのでその辺りは分からなかったが、もう消え失せた呼称だった。ならば別に、気にしなくてもいいだろう。次に霧崎のメンツで会う時にまだ気になっているようだったら、聞いてみたら良いのだし。 「………テメーは、」 ザク、と。 フォークが野菜を貫通する音がする。 「どうして大人しくしてないんだろうな」 「あ?」 脈絡のない会話だった。別に、拘束欲だとかそういうものがある訳ではないと思うのだが、それにしたってこの男はひどく自由だ。その分花宮も大分自由にやってはいるが、スケールが違うと言えば良いのか、ベクトルで済ませて良い話なのか。 「なんか朝食に文句でもあっかよ」 「ねえよ」 「じゃあ黙って食え」 「美味いつってんだよ」 「それなら別に黙らなくても良いか…?」 そんなふうにして首を傾げる、その仕草を見慣れてしまった時点で花宮の敗けだった。 *** 誰も知らない(もちろん自分自身も) いつこの感情が恋なんてものに変わったのだろう、と思う。告白は火神の方からだったが、それは花宮が無様にも衝動的にその唇を掠め取ったからであって、つまり切欠は花宮だった。好きでもない奴にキスなんてしない、なんで夢見がちなことは言わないが、別段性欲やその他、他人と触れ合いたいという欲に支配されている訳ではない花宮が、そんなことをしてしまった、というのは残念ながら証拠となった。 「なあ」 「ンだよ」 「テメーは俺の何処が好きなわけ」 「ハ?」 「なんだよそのハ?≠ト」 「いやお前頭良いだろ…だから分かってるもんかと」 「普通にわかんねえから聞いた」 「お前でもわかんねえことあるんだな」 「何嬉しそうにしてんだ」 わしゃ、とその頭を撫でる動作も染み付いてしまったな、と思う。 「じゃあ、今から順番に上げてくけど、」 「ん?」 「半分以上悪口になるかもしんねーからそこは悪いって先に謝っとくな」 「いや、待て。悪口になるようなとこが好きなのか?」 「悪口になるようなところも好きだな」 「………さっきの質問はナシにする」 「え、でもオレはオレが花宮の何処を好きか知って欲しいけど」 「うるせえだまれ」 囀る大型犬を黙らせる方法なんて、その口を塞いでやるという古典的なものくらいしか思いつかないこの脳は本当に使えなかった。 * [helpless] @helpless_odai *** |