これ いず にちじょう



その日、黛が仕事から帰って来ると、
留守番をしていた同居人は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。

ハウスキーパー兼同居人の世話係である女性と、
今日の伝達事項を話している間中ずっと、彼はそわそわとするのを隠せないでいるようだった。
何か良いことでもあったのか。
そう思いながら今日の分の書類にサインを書いて、その後姿を見送る。
「いけるさん、また明日よろしくお願いしますー!」
元気なその声に、女性は小さく手を振った。

そうしてやっと、彼の方へと視線を下ろす。
「で、どうしたんだよ、葉山」
何か話したいことがあるんだろ、と続けると、何で分かったの、とその目は見開かれた。
「見てれば分かる」
「えーそんなに分かりやすかったかなぁ」
ま、いいけど、と息が吐かれる。

葉山小太郎には両腕両足がない。
いや、なくなってしまった、と言うべきだろうか。
彼と出会った高校時代には確かにそれらは存在し、
コートの上を縦横無尽に駆け回る姿を見ていたのだから。

とりあえず椅子にでも座っててよ、と葉山は言った。
「見てて、黛サン」
そう言って黛が椅子に座ったのを見届けると、その前までぽてぽてと歩いてやってくる。
そうしてよいしょ、と黛の目の前にもう一つある椅子に手を(手だった部分を?)掛けると、
そのまるい身体が持ち上がる。
「じゃーん!」
誇らしげにこちらを見遣る葉山に、黛は純粋に目を見開いてみせた。
「すごいでしょ、オレ、椅子に登れるようになったんだよ!」
「のぼ…いやまぁ確かにそうだけど」

ふわり、と笑みが浮かぶ。
そのまま手を伸ばして短い髪を撫でてやると、葉山は嬉しそうに目を細めた。
「黛サン」
そっと、葉山が呼ぶ。
「オレ、これからももっと、出来ること増やしてくから。そしたらまた、褒めてね」
「当たり前だ」
それは宣誓のようだった。

こんな少しだけ前とズレたような、それでも大まかには変わらない、僕らの日常。



20140709