午前零時まで呪いは解かないで:花諏佐
悪い魔法遣いのかけた、ややこしい沈黙の呪い。
きっと耐え切ったら、素晴らしい祝福が待っているから。
*花宮くんが関西出身設定
「今日一日オレと口聞くな」
はるばるやって来て開口一番言うことはそれか、とは思うが、
どうせまた今吉と良からぬことを企んでいるのだろう。
分かった、というジェスチャーをしてからそのまま参考書に向き直る。
諏佐佳典と花宮真は付き合っている。
無論、恋人としてである。
今吉という接点らしかぬ接点しかない二人がどうやってそういう関係になったのかはさておき、
こうした花宮の良く分からない要請は初めてのことではない。
その大体に今吉が絡んでいるのも、諏佐が害のない範囲でそれをのむ理由の一つだ。
高校生活の大半を一緒に過ごしてみれば分かるが、
今吉という男を止めるなんて土台無理な話なのだ。
妥協出来るように自分の思考が作り変わっていくのも無理はない。
一体今度は何をしているのか気になる所だが、まぁ悪いことではないだろう。
霧崎第一と桐皇は同じ都内ではあるが、そこまで近いという訳でもない。
狭いと言えども東京だって二千キロ平方メートルを越す面積を所有しているのだ。
幾ら交通機関の発達した現代に暮らしていると言えど、
学校も部活もある学生ではそうそう会うことは出来ない。
諏佐が寮生活なのも手伝って、その機会は恐らく普通の恋人たちよりも少ないだろう。
まるで遠距離だ。
同じ都内なのに。
こんこん、とノックされた扉にはーい、と声を掛ける。
「今吉さんやでー」
「入れー」
がちゃり、とドアが開いて入ってきたのは恐らく元凶であろう同級生。
手に参考書を持ってはいるが、監視のため来たと考えるのが妥当だろう。
当たり前のようにローテーブルの向かいに座った今吉を呼んだ。
「今吉」
「なんや?」
にこにこと楽しそうに、
そりゃあもう楽しそうにこちらを向く今吉にため息を吐いてから尋ねる。
「さっき花宮が一日って言ったけど、零時までってことか?」
「そうやで」
当たり前のように頷く今吉。
「どうせ花宮泊まってくんやろ?」
「そうだけど」
翌日は休日で、諏佐も花宮も予定がない。
だからゆっくり過ごそうと思っていたのに、そうも行かなそうだ。
呪いか、呪いなのか、妖怪なだけに。
はぁ、と今吉へのあてつけのように大きくため息を吐いて、
諏佐は参考書へと向き直ったのである。
今日を余すところ三十分となったくらいで花宮の落ち着きはなくなった。
そわそわと時計を見つめる姿はそれなりに可愛らしいが、
恐らく本人は必死なので微笑むだけにしておく。
花宮がやって来てから既に六時間程が経過していた。
途中夕飯に繰り出したり、花宮の宿泊届けを出しに行ったりしたが、
その間諏佐と花宮の会話はゼロである。
良くここまで耐えたと思う。
十、九、八、七、と秒針を追って心の中でだけでカウントしていく。
一、零。
「…ッやりきったぞ、さっさと出すモン出して自分の部屋に帰れ!!」
立ち上がった花宮が、声も抑えずにそう吐き出して、今吉の襟首を掴んだ。
掴まれた方の今吉は少しだけ驚きに目を見開いて、直ぐににやにやし始めた。
「なんや花宮、そんなに諏佐と喋れんの、」
「嫌だったに決まっとるやろ!仮にも恋人やぞ!」
余程苛々していたのか口調が関西弁に戻っている。
諏佐は止めるでもなくその様子を見ていた。
穏やかにこそしてはいるが、諏佐とて花宮が横にいるのに喋れないという状況に、
不満がない訳ではないのだ。
正直良いぞもっとやれ、くらいの気分である。
そうして今吉が差し出した何かをひったくるように受け取ると、
花宮は今吉を蹴り出すようにして部屋から追い出したのである。
「もう喋って良いのか?」
「ああ」
すっきりとした笑顔で隣に腰を下ろした花宮が寄りかかってくる。
「今回は何をしてたんだよ」
「…これ」
花宮が差し出したのは二枚のチケット。
「諏佐さん、行きたいって言ってただろ」
確かにそれは諏佐が以前行きたいなぁ、と零したイベントのチケットであり、
あまりに人気で前売り券が完売したというニュースを見て、半ば諦めていたものでもあった。
「今吉と賭けたのか?」
こくり、と縦に振られる頭を撫ぜてやる。
今吉がどうやって手に入れたのかは気にしないことにしておくことにした。
「ありがとな」
外から見るよりも花宮は存外寂しがり屋だ。
喋るのが好きとまではいかないが、諏佐といる時には口数が増える。
そんな彼にとって一日諏佐と口を聞かない、というものは結構辛いものだったに違いない。
自惚れではなく、それくらいには愛されている実感があった。
どうせ今吉のことだ、そういう花宮の性質も見抜いた上での条件だったのだろう。
なんて奴だ、とは思うが、
チケットの価値を考えるとそれくらいの条件も付けたくなるのかもしれない。
まぁ、花宮の頑張りのおかげでチケットは手に入っているのだから、
今は素直に感謝しておこう。
勿論花宮にだが。
するり、と腕が首に回される。
「なぁ」
呼吸が分かる程近くで、花宮が囁いた。
「頑張った分のご褒美くらいはもらって良いんじゃねーの」
「…手加減、してくれよ」
その瞳に子供のような光を見つけて、ため息を一つ。
夜は、まだ、長い。
花諏佐の「今日一日オレと口聞くな」で始まるBL小説を書く
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20130322