spring:山崎
春。
誰もいない部屋に一人、ダンボールに囲まれて座り込みながら山崎弘は息を吐いた。
山崎は今日、此処へ越してきたのだ。
これから六年間、何事もなければこの部屋にお世話になる。
中高一貫、全寮制のこの学校は歴史もあり、そこそこ有名だ。
やんごとなき人々が入る学校という訳ではないが、それなりに地位のある者が集まる場所。
山崎もそのうちの一人に入るのだろう。
胸を張っては言えない、理由が少しあるだけで。
本来ならば二人で使うことを想定されているであろうこの部屋は、
人数の関係で山崎が一人で使っていいことになっていた。
嬉しいことだ。
同室になる相手が自分と気の合う人間であるとは限らない。
人付き合いは面倒なのだとこの歳で既に学んでいる山崎にとって、
プライベートに絶対的な一人の時間を持てるというのは、とても喜ばしいことだった。
立ち上がり、窓を開け放つ。
正門の並木道が良く見えた。
まだ咲いてはいないが、今日入ってくる時に見た限りでは桜だろう。
もうしばらくしたら満開になるに違いない。
ちょうどこの部屋は良い花見スポットになりそうだ。
そんなことを考えながらまた床に座り込む。
自分のものは全て詰め込むつもりで荷造りをしてきた。
最低限のものしかないと思っていた荷物は、それでも高く積み上げられている。
制服など着替えは先ほど出した。
ノートやら筆記用具やらすぐに必要になるであろうものたちも、
一つのダンボールに詰めて分かりやすいように外側にマジックで印を付けてある。
なら、良いか。
言い訳のように山崎は心の中でだけそう呟く。
こんなに暖かい日なのだ、引越作業で根を詰めるのも勿体ない。
「休憩、しよう」
寝転がった床は冷たいから、目を閉じることはしないけれど。
吹き込んで来た風は、確かに春の香りがした。
20140204