第五夜
こんな夢を見た。
どこぞの飲食店で今吉はラーメンを啜っていた。
そのラーメンはやたらと脂ぎった野菜と、
肉塊と言った方が正しいであろうチャーシューがドン、と乗っていて、
更にはその横に山盛りの餃子とチャーハンが置かれていた。
店主も他の客もいない空間で黙々と食べ進めるのになんだか違和感を抱きつつも、
食べているものの味も満腹感を通り過ぎた嘔気もないので、
今吉はただ静かに料理を平らげていた。
咀嚼して、飲み込む。
ただそれだけを作業のように繰り返して、今吉はそれらを片付けた。
ごちそうさま、と手を合わせて箸を置く。
立ち上がって勘定、と思い出したが、
そういえば店に入った時に先に食券機に支払ったような気がした。
そんなもの何処にもないのだが、店に誰もいないのであるし、
きっとそうだったのだろう、と一人結論付けて身支度をする。
暖簾を潜って店の外へと出ると、漸く視界に入るかという場所に見慣れた背中を見つけた。
その背中を見つけた突端、ああ、そういえば昼を食うからと諏佐を外で待たせていたと思い出す。
「すさぁ、待たせたな」
諏佐は振り返らない。
可笑しいな、と思いつつまだ遠いその姿に目を凝らせば、
足元に一匹の犬が纏わりついているのが見えた。
黒い、犬である。
柴犬であろうか、そこまで大きくも小さくもない犬だ。
その犬が諏佐の尻を熱心に嗅いでいる。
犬は挨拶で尻を嗅ぐのだったな、とそう思い出した瞬間、
くわん、と何処かで何かが鳴ったような気がした。
はて、と首を傾げる。
辺りを見回しても何もなく、そんな音が鳴るのはひどく可笑しいことのように思えた。
先ほど出てきたラーメン屋も消えていたが、それはそういうものなのだと何処かで知っていた。
「すさぁ」
もう一度呼んでみる。
やはり諏佐は振り返らない。
またくわん、と何処かで何かがなかった。
視界が揺らいだようにも見える。
どうしよう、と思った。
てくてくとその距離を縮めたら良いだけな気もするが、
此処から離れてはいけないような気もする。
足の裏に根が生えたようになって、今吉は呆然と立ちすくんでいた。
くわん、と世界が揺らめく中、振り返った犬の顔が花宮にひどく良く似ていて、
それがにたりと今吉を嗤ったのだけは、ちゃんと分かった。
20140117