第四夜



狭い畳張りの部屋にぽつねんと、古いテレビが置いてある。
駄目になったら叩けば治りそうな、そんな古いテレビである。
ふかふかの大きな座布団に埋まるようにして自分は其処でくつろいでいた。
あまりに静かな部屋だ。
一つだけある窓は真っ暗で、どうやら今は夜らしい。

どうしてこんなところで一人くつろいでいるのかは分からなかったが、
ぼんやりとその古いテレビを眺めていると、さもそれが当然のことのように思えて来た。
諏佐は何処だろうか、花宮は何処だろうか、夕飯は食っただろうか、風呂は入っただろうか、
いろいろと浮かんで来ることはあるというのに、
そのどれもがまぁ別にどちらでも良いことか、と消えていくのである。

そうして幾程経ったろうか、急にぶつん、と音がして古いテレビの画面が揺れた。
ざあ、と砂嵐が走る。
それをぼうっと見つめていると、ふと頭に少年の声が蘇った。
はて、誰の声だったろう。
聞き覚えがあるが、高いその声はそんな戸惑いなどとんと無視して続ける。
「夜中、真夜中のテレビが終わったあとの砂嵐をね、
そのままにしておくと、明日の犠牲者が映るんですって」
楽しそうに、その恐らく記憶は再生を続けた。
「明日の犠牲者、ですよ、よおーく見ていてごらん、って、ね」
本当に、誰の声だったろう。
首を傾げながらテレビを見つめる。
砂嵐のままである。

どれほど見ていたか、ふつりと一瞬砂嵐が止んだ。
刹那、テレビの画面の中から自分を見つめ返していたのは自分の顔だった。
白い顔で、にやりとした笑みを浮かべながら、どくどくと血を流している自分だった。
眼鏡の縁はぐんにゃりと曲がり、其処に必要な丸硝子は嵌めこまれていないように見えた。

それは本当に一瞬のことで、すぐにその顔は砂嵐に飲まれてしまった。
ああ、つまり、そういうことか。
寝て起きたら列車に乗らなければならないことを思い出して、
あまりに無感動に自分はそう思っていた。
自分のその無様な死に様よりも、隣に諏佐も花宮も見えなかったことが気にかかった。
明瞭には思い浮かばないが、それでもきっと、
自分の隣にはいつものようにあの二人がいるのだろうと、そう思っているのだった。
救えないな、とも思った。

そう思ったらじわじわと笑いがこみ上げて来たが、それすらすぐに引っ込んでしまって、
やはり自分はぼんやりと、もう既に砂嵐すら映さない古いテレビを眺めているだけだった。

据え置いた古時計がぼーん、と時間を知らせるまで、そのままそうしていた。
そうしてその時計の音を聞きながら、
あの甲高い少年の声は高尾のものだったと、そう、ふと思い出したのであった。



20131113