第二夜



こんな夢を見た。

諏佐と自分はいつものように花宮を連れて、港町へと来ていた。
まるで明治初期のような格好をした自分らに違和感を覚えることもなく、
ああ諏佐はこういった服装も似合うのだなあ、と思っていた。

港では大きな船がゆっくりと入って来ていた。
歓迎するようにワアワアとざわめく観衆に紛れてそれを見ている。
何かの式典らしい。
ぱらぱらと舞う紙吹雪をぼんやり眺めていると、
床屋をちょっと行ったその先から軽やかな音楽が流れて来た。
そわそわと気にしたような素振りを続けていると、諏佐が苦笑して移動してくれた。

その小さな人だかりの上から覗くと、まるでそれは見世物のようだった。
踊る人間、歌う機械、芸をする子犬。
「さアさア世にも奇妙な品からそんじょそこらに溢れているものまで!
お買い上げ希望の方は声をおあげ下さいなア!!」
どうやら見世物と競売を合わせたもののようだ。
諏佐が動かないようなので自分はそれを存分に眺めていた。
どれも摩訶不思議なもので、高い値で売れていく。
しかし、心を擽るような品はなく、自分はただそれを眺めているだけだった。
何処か心からずどん、と重い鎖でも伸びているように、湧き上がるような物欲を感じないのだ。

はて。
自分はこんなに欲のない人間だったか、そう首を捻るも欲しいと思わないのだから仕方ない。
じっとそれを眺めるだけである。
眺めているだけならばとても面白く、わくわくとするものだった。
隣で諏佐も時折息を吐いては心を揺り動かしているようだった。
もしかしたら、それは自分とは全く違った動き方なのかもしれなかったが。

ショーも大詰め、司会者が手を広げて挨拶をする。
最後の品です、その言葉と共に移動式の簡易舞台に出て来たのは犬だった。
どう見てもプードルである。
ペットショップに入ったら普通に見られそうな、何の変哲もないプードルである。
司会者も、
「最後の品としては些か不十分でしょうか、ただのプードルでございます」
そう笑いながら説明した。
それでも観客はワアワアと喜びの声をあげる。
よくある詐欺の一場面のようだ、と思いながらも、その犬を見た途端、
今まで凍り付いていた欲に火がついたのが、手に取るように分かった。
ふつふつと湧き上がる胸を押さえて、隣の諏佐を呼ぶ。
「なぁ、すさぁ」
あれ、欲しい。
そう続ける前に、諏佐は首を振った。
周りに聞こえないように自分の耳に口を寄せると、そっと呟く。
「あれは羊だ」
自分は目をぱちくり、と瞬かせるだけだった。
「羊?」
「ああ、毛を刈りこんでプードルに見せかけているだけだ」
なるほど、言われてみたら確かに羊である。
ネタばらしをされても尚、胸の熱さは消えなかった。
寧ろ更にどくどくと音を立てて、血管を千切るつもりなのかと思う程だ。
「すさぁ」
もう一度呼ぶ。
「だめだ」
諏佐は静かに首を振った後、そっと自分の目に手を載せてきた。
眼鏡の向こうは諏佐の手で隠され、それでも眼鏡ごと押し付けてこない辺りが諏佐だと思った。
「だめかぁ」
「ああ、だめだ」
中途半端に遮られた視界の向こうで、メェ、と子犬が鳴いていた。



20130315