花宮真は目を開けた。 ごぽり、と気泡が上がる。 花宮は擦り切れた座席の上に、ぽつねんと鎮座していた。 目を凝らして見ると、あちらこちらほろほろと壊れているようだった。 映画館だろうか、眼前には大きなスクリーンがある。 これもまた古ぼけた色合いで、此処はもう人の手を離れているのかもしれないと思わせた。 じじじ、と音がしたかと思うと、ぱっとスクリーンが照らしだされた。 さん、に、いち。 じらじらと一昔前の演出か、その映像は粗いものだった。 「…諏佐、さん」 ごぽり、また気泡があがる。 誰の目線のものかなど、聞くまでもなかった。 見れたものじゃあないほどにそれは粗いのに、どうしてこうも美しい。 花宮は今すぐ此処から逃げ出したかった、けれども彼には脚がなかった。 「ざーんねんやったな」 真後ろで、そんな声がした。 この世で一番、花宮にとって邪魔となる存在の、声。 からから笑う彼が離れていく音がして、それからがちゃん、と重たい音がした。 それが背後にあった唯一の扉の鍵が閉められた音なのだと、振り返らずとも分かっていた。20140519