人間の定義



「まことさま」
可愛らしいお人形は囀る。
囀るが花宮はその言葉に何一つ返さない。
瞼を震わすこともなく、ましてやその花のような唇が言葉を紡ぐこともない。
「どうしておへんじいただけないのかしら?
もしかしてまことさまは、まだにんげんでいたいのかしら?」
きゃらきゃらとその声は花宮の耳から今も残っているのかどうかすら分からない脳に忍び込み、
そうしてやはり残っているか不明な脳幹を叩いていく。

毎夜毎夜こうして囀る彼女が、正直花宮には鬱陶しいことこの上ないのだが、
彼女が諏佐の持ち物であり、
尚且つ彼の従姉妹から贈られたものとなればどうにかしろと訴えるのも気が引けた。
誰かからの贈り物を大切にするのは今吉が諏佐に教え込んだ人間らしさであり、
それを否定するのは恐らく、今吉の機嫌を損ねる羽目になるのだろう。
自分のことをで自分で出来ない以上、花宮には今吉の機嫌を伺うだけの動機がある。
此処にいたいと願うのだから尚更だ。

「まことさま」
まだお人形は囀っていた。
諦めが悪いのか、それとも諦めるということをそもそも知らないのか。
「まことさまはもうにんげんではなくってよ。
それはだれのめにもあきらかでなくって?」
くすくすと笑う声に嘲りは見えず、恐らく彼女は純粋に花宮と遊びたいのだろうと思わせた。

しかし。

しかし、それが、なんだと言うのだ。
五月蝿い、と花宮は思う。
その唇を噛むこともしないで、彼女を睨みつけることもしないで、
ただ動かず置物に徹しながら、余計なお世話だ、と思う。

誰の目にも明らかでも、たった一人が、
すべてとも言えるその人が違うというのなら、それは違う。

世界を形成するのはたった一人だけで良い。
そうして世界は出来ている。
その人が花宮を人間だと言う限り、花宮はどうしたって人間でしかいられないのだ。



「夜の部屋」で登場人物が「密会する」、「人形」という単語を使ったお話 診断メーカー
20140214