突き刺され、矢印。:今花



一人暮らしになったからいつでもおいで、なんてそんな甘い言葉が罠であることを知っている。
その人は花宮が断らないことを知っている。
知っているから勝手に合鍵なんて押し付けて来る。けれど。

重要なところがわかっていない。わかっていない。

玄関に入って鍵も閉めずに、その唇に噛み付くように。
煽られろ、と下から睨みつけてやれば誘ってるのかそうでないのかどちらなのかと問われた。
鼻で笑う。手が伸びてきて抱き締めて、
それからもう一度、仕切り直しとばかりにキスをして、そのまま中へ入っていって。
少しだけ花宮より大きな手が服を脱がせていって、それで。

はっと気付いたように立ち上がったその人が何を思い出してしまったのか、花宮には分かる。
「鍵、閉めるん忘れたわあ」
ちょっと待っててな、と玄関に向かっていく、少し肉のついた背中を見送る。
すぐに帰って来る、鍵を閉めるだけ、そう分かっているのに。

花宮の頭にだって、鍵を気にする余裕くらいはある。
後ろ手で閉める余裕だって、まぁなくはなかった。それを分からない妖怪ではないだろうに。
「…わざと、だろ」

花宮の呟きはしん、とした部屋に小さく融けた。



image song「SHE IS FINE」クリープハイプ
20150308