フロー・フロー・ラバー!:青諏佐
*青峰くんが寮生活設定
「お、諏佐さんじゃん」
肩まで浸かってごひゃく数えよう、なんて童心に返っていた諏佐は、
誰かの入ってきた音と、そんな声で閉じていた目を開けた。
「青峰か」
それなりに広く造られている浴場に今いるのは諏佐だけだ。
もう少しで施錠されるという遅い時間、
ぬるめの風呂に浸かるのは受験勉強がメインになってからの諏佐の一つの楽しみだった。
「遅いな」
「練習キツかったから部屋帰って寝ちまったんだよ」
おかげで筋肉固まっちまってたわ、と続ける。
そんな会話一つからも、冬の敗北から青峰が変わったのが分かって諏佐は息を吐いた。
何故、自分のいる時でなかったのだろう。
そう思わないとは言わない。
青峰が身体を洗う音を聞きながらまた諏佐は目を閉じる。
先ほどの続きを数えようとしたはずなのに、
どうしてもひゃくさんじゅうにから数字が進まなかった。
目を開ければすぐそこに青峰がいるというだけで、どうしてこんなにも落ち着かない。
「諏佐さん寝てンの?」
悶々と考えているうちに青峰は身体を洗い終わったらしい。
「起きてる」
答えながら目を開ければ、ざぶざぶと青峰が湯に沈んでいくところだった。
じっくり見たことなどなかったが、
それでも記憶にあるものよりもその腕はしっかりと筋肉がついたような気がした。
どうにもそれが胸に冷たい空気を吹き込んでくるようで、振り払うように少しだけまた湯に沈む。
青峰はと言えば視線こそ合わないものの、
何か良いことでもあったのか何処か嬉しそうに、頬を緩めていた。
僅かなその表情の変化が分かるようになったのは、いつからだったか。
あの時手を伸ばしたのはそれが分かるようになっていたからで、
そう考えると結構前から青峰のことを見ていたような気がする。
浴槽の縁に誰かが忘れたのか、
置いてあった黄色いアヒルを青峰が取り上げ、二人の間に浮かべてみせた。
その瞬間のにっとした笑みがいたずらっこのそれで、
ああこんな顔も出来るのだな、とふっと笑みを漏らす。
胸の辺りに燻っていた緊張が解け、そこで初めて自分が緊張していたことに気付いた。
それが青峰にも伝わったのか、ゆっくりと開かれた唇から言葉がこぼれ落ちる。
「オレさ、頑張るから」
僅かに見開いた目には気付かれてしまっただろうか。
頑張る、なんて。
その天才性故に力を持て余して孤高になって、
練習なんかしたらうまくなってしまうと、ほざいていた青峰に、なんて、不似合いな。
「夏と、あと来年の冬、見に来いよ」
ぜってぇ。
勝つから。
そう、少し目線はずらされているものの真っ直ぐなそれに、ゆっくりと三度ほど、目を瞬かせて、
「…そこは、見に来てくださいだろ」
諏佐は少々ズレたツッコミをしたのだった。
ぷかり、と二人の間で黄色いアヒルが揺れる。
なんとなく、それは笑っているようにも見えた。
フォロワーの咲葉さんのお誕生日だったので!
20131120