だらしのない男と綺麗好きの男:原+山+瀬
*知ってる人も多いであろうネタ
山崎と連絡が取れないのだと、古橋に相談を受けたのはある晴れた秋の日のことだった。
八月の下旬頃からメールも電話も通じなくなって、と古橋は言う。
こいつらそんなに仲良かったっけ、そう思いながらも瀬戸は分かった、と返した。
霧崎で一緒だったバスケ部スタメンの連中は、結局高校卒業後も何だかんだつるんでいた。
こうしてそれぞれが就職した今では、
頻繁に会うことも出来ずに連絡を取り合うのみになってはいるが。
古橋も花宮も都外に出てしまっていて、なかなか集まれないというのもある。
そういう前提があるので、古橋は瀬戸に連絡してきたのだろう。
原にも聞いてみたが、何も知らないとしか返って来ないそうだ。
いよいよ心配になった古橋は山崎の家を尋ねようかとまで思ったらしいが、
なかなかまとまった休みが取れず、結局瀬戸に頼むことにしたらしい。
何故瀬戸なのかと言えば、
原ならばめんどくさいの一言で切り捨てるのが分かっているからであろう。
「ザキが、ねぇ」
存外細やかな彼が、理由もなしに古橋からの連絡を遮断するとは考えにくい。
面倒なことになってなきゃ良いけど、と思う。
山崎もまた他の面子と同じように一人暮らしだったはずだ。
スケジュール帳を開く。
丁度、次の週末は何も予定がなかった。
電車で一時間半、揺られて辿り着いたのは山崎が住んでいるはずのアパートだ。
そこまで広くはないが、何度か此処にも集まったことがある。
以前来たのは三年程前だった気がするが、
それでも駅からの道に変わりはなく、一度も迷うことなく辿りつけた。
インターホンを押してみる。
反応はない。
周りに人がいないか確認してから郵便受けを覗いてみる。
中はチラシやら請求書やらでごった返していた。
どうやら山崎は此処にはいないらしい。
しかも、それなりに長い期間。
ふむ、と前髪を掻きあげる。
古橋の話によれば連絡がつかなくなる前、山崎は転職を考えていたらしい。
資格やら何やらの関係で先に仕事を辞め、
日雇いのバイトをこなしながら勉強を始めた矢先のことだったと言う。
「失踪かァ…?」
嫌な予感が頭を過る。
これは本当に警察沙汰なのかもしれない。
息を吐いた。
「…原のところにも一応寄っておくか」
取り出しかけた携帯をそのままポケットに戻す。
知らないとは言っても、何か手がかりを持っているかもしれない。
「瀬戸じゃん、どうしたの、急に〜」
久しぶりに会った原は前見た時とそう変わらなかった。
「ん、ちょっと野暮用でこっち来たから。ついで」
「ついでって。ちょっとヒドくない?」
「ひどくねーよ、オレだって忙しいもん」
山崎のことを伏せたのに特に意味はない。
強いて言うのならば、
まだ失踪が確定事項でない以上、ぺらぺらと喋るのは好ましくないと思ったからだ。
「仕事、どうなの」
「毎日あっついよ〜」
火で燃やすとか、マジ前時代的でしょ。
なんで未だ許可されてんのかわかんなーい、そう笑う原はいつも通りだ。
変わらないことがなんだか擽ったく感じて、瀬戸は笑う。
瀬戸の方はどうなの、とその質問に答えようとした時、
タイミング良くピーンポーンとチャイムが鳴った。
「やべ、今日電気屋さん来るんだった」
「あ、オレいない方が良い?」
「いや、外の基盤見るだけだったはずだから大丈夫だと思う」
待っててよ、と原が慌ただしく玄関へ向かう。
その際に盛大に机を蹴り飛ばして行った。
ずざざざざ、とその上に積まれていたチラシやらノートやらが崩れ落ちる。
こういうとこも変わんねぇな、と思いながら瀬戸はそれを一つひとつ拾い上げていった。
クーポン付きのチラシ、カタログ、コンビニの割引券、レシート、請求書、不在届。
ごちゃごちゃとしたその一番下に、それは埋まっていた。
ばさり、と開いたそれは日付と何行かの文が書いてあって、一目で日記だと分かる。
「お盆休み」やら「ザキ」やらの単語が目に入って、
悪いことだとは思いつつ、瀬戸はそれを拾い上げた。
・
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8日
早めのお盆休み開始!
14日
ザキと喧嘩した
すっげーうるさかった
15日
ザキの携帯踏んで壊しちゃった
でも怒られないもーん
16日
冷凍庫いっぱいになっちゃった
節電なんてしてらんねー
ゴミ袋もなくなっちゃったし買い出し行かないと
17日
お盆休み最終日ー
仕事だるい
焼却炉めっちゃ暑いのにー
24日
古橋からザキどうしてるか知らない?ってメール来た
古橋でも心配とかするんだ
27日
斎藤にアボカドもらった
アボカドって余るもんなんだ
30日
古橋しつこい
そんなにザキと仲良かったっけ?
9日
計画停電困るなぁ
冷凍庫のもの大丈夫かな
11日
冷凍庫のものは処分しちゃうことにした
いつかやらなきゃいけなかっただろうしね
12日
どうやって処分しようかまだ考えてる
一気に捨てたらだめだよね
17日
今日は山へ足を運んだ
結構山奥まで行った
クマとか出なくて良かった
20日
鈴木さんと出勤日交代することになった
次の休みは22〜
22日
今日は海へ足を運んだ!
シーズンじゃない海はガラガラだった
水面って灰色に見えたりもすんだね
25日
焼却炉入れ替えらしい
これから忙しくなる
28日
明日は休みだから出掛けたい
でも山にも海にも行ったし
頭抱えて悩んでる
29日
結局廃墟に行ってきた
まぁ良い考えだったと思う
4日
間辺がミス
尻拭いに奔走した一日だった
5日
仕事中にため息吐いたら斎藤が手を焼いてるのかって
笑っちゃった
どうもって返しといたけど
10日
冷凍庫の残りは鍋に入れちゃった
これでスッキリ!
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手が震えているのが分かった。
この時ばかりは自分の良く回る頭のことを恨めしく思う。
「瀬戸?」
背後で声がして、びくりと肩が揺れた。
「何してるの?」
ぎぎぎ、と音がしそうなぎこちなさで振り返る。
そこにはいつもと同じ原がいた。
だが、いつもと同じであることが絶対的におかしいと思えてしまう。
原の視線が瀬戸の手の中の日記に落ちて、
「あーあ」
にこっと、でも、少し困ったように。
「ばれちゃったぁ」
20130719