corrupt:今←花



*逆レ
*暴力表現有り
*今吉さんが他の女性と結婚している
*未来の話
*今吉×女性の性行為も有り
*全体的に胸糞
*終わり方も胸糞



*本作品は犯罪行為を推奨するものではありません



そろそろ子供が欲しい、とそういう話になるのは別段可笑しいことではなかった。
結婚して三年目、丁度いい時期だろう。
ねぇ、良いでしょう?と可愛らしく微笑んだ彼女を拒む理由はなかったし、
経済的余裕や自分の覚悟など、妨げになるものもなかった。
「良ぇよ」
そう言って白いシーツの波に溺れようと、二人転がったのは、何も可笑しなことではない。
首に回された細い腕に一つキスを落として、その髪を撫でて。
いつものように優しくしてやろうと、その唇に食らいついた。

か細く喘ぎながら、彼女は自分の上で動いていた。
子供が欲しいと言ったのは彼女の方だったのもあったのか、今日はやたらと自分で動きたがる。
好きなようにさせてやろうと思った。
結婚するほどに愛した女性だ、それに、気持ち良くなれるのだから文句はない。
主導権を握られたからと言って悔しがる程、自分は器量の狭い男ではないと自負している。
ふと、彼女と目があった。
ふわり、と微笑まれて、同じように返す。
きもちいい?きもちええ。
そんな会話、ありきたり。
なのに、こんなにぞわぞわと悪寒がするのは何故だろう。
「翔一さんに、」
きゅう、と締め付けながら彼女が笑う。
「翔一さんに良く似た、男の子が、良いなぁ」
積極的に腰を動かす彼女の言葉に、ひやり、と脳幹が冷える音が聞こえた。
とろりと喘ぐ彼女は動きを止めた自分に気付かない。

翔一さんに良く似た男の子、が良い、なぁ。

がんがんと脳内を侵食していく痛み。
一気に放出されたのは、まるで、麻薬のような。
「翔一、さん?」
不審に思ったのか彼女も動きを止めた。
咄嗟に口を押さえて顔を背ける。
鈴の鳴るような、と表現しても差し支えない声が、
あの小馬鹿にしたような声と重なって聞こえた。



今吉翔一が後輩である花宮真に押し倒されたのは、
彼が高校を卒業する少し前の日のことだった。
「第一志望に受かったんですよ」
だから褒めてください、そう言って一人暮らしする自分の家にやってきた彼を、
その時点で疑うべきだったのだ。

「中に出させてくださいって言えよ」
自分の上に跨った花宮が言う。
突然の容赦のない拳に反撃する術もなく、床に倒れ込んだ。
ラフプレーでこんなものまで培ったのか、ああやっぱりお礼参りなどあったのだな、
なんて考える余裕がまだこの時点ではあった。
倒れたままの自分を抑え込んで、花宮は服を剥ぎ取っていく。
唇を奪われ口腔内を荒らされ、身体中にキスを落とされる。
「ねぇ、翔一さん」
名前でなんか呼んだことないくせに、と思った。
抵抗する度にあちこち殴られて、今は何処が痛いのかすら良く分からない。
頬が殴られ血の味がしていたから、きっと口の中は切れているのだろう。
「言える、でしょう?」
いっそのこと、錯乱したように怒鳴られたかった。
今がした自分を殴った人間と同一人物だとは思えない優しさで、髪が梳かれる。
好きなんです、と花宮は言った。
今吉さんが好きなんです、
とあの花宮からは想像もつかない程震える声で、確かにそう言ったのだ。
突然のことにえ、あ、と意味のなさない言葉を零していると、
続いて飛んできたのは追撃の愛の言葉なんかではなく、拳で。

「まこちゃんの、ナカで、出したいーって。ほら。言えるでしょ?翔一さん」
良い子だもんねぇ、とこちらを見つめる目はとろり、と確かな欲に染まっていて、
ああ本当にこいつは自分をそういう意味で好きなのだと今更ながらに思う。
だからと言ってこの仕打ちを許せる訳はないのだが。
「ほら」
口に指を突っ込まれる。
「このまま焦らして欲しいんですか?」
翔一さん淫乱だなぁ、とにやける花宮を睨み付けた。
と同時に空いていた方の花宮の拳が腹に落ちる。
ギャッという悲鳴が漏れた。
「言えますよね?」
さす、と臍の辺りに指を滑らされるその感覚に、プライドなんかよりも恐怖が勝った。

「な、ナカ、で」
「はい」
「まこちゃん、の、ナカ、で、だ、だした、い」
その瞬間破顔した花宮は、天使と見紛う程だった。
「良い子ですね、翔一さん」
愛おしそうに、本当に愛おしそうにその指が頬を撫ぜて、また腰を揺らす。
「ん、あッ」
女と大差ないその艶めいた声に、思考も感情も真っ白になる気がした。

どくり、と開放感が訪れたのは自分が一番良く分かっていた。
あ、は、と語尾にハートでもつきそうなとろっとろの唇が笑いを漏らす。
「出ちゃいましたね、翔一さん」
自分のものの所為で、そこは一層とろりと蕩けたようだった。
「翔一さんの望んだ、まこちゃんのナカで出しちゃった感想はァ?」
望まれている応えなど分かっていた。
けれど、先ほど砕け散ったはずのプライドは、
またいつの間にか自分の両腕にかき集められていて、それを紡ぐことを拒んでいる。
「ねぇ、」
言えますよね?
「き、きもちえかった」
花宮が手を握ったのが見えて、またプライドは散らばった。
「へぇ?」
嬉しそうに、心底嬉しそうにこちらを見やる花宮に、考えるより先に言葉が転がり出て行く。
散らばり切ったプライドは、もう戻って来ることはないのだろう。
「ま、まこちゃんの、ナカ、すご、きもちえか、った、ほ、ほんまやで、
い、いままでに、ない、くらい、きもちえ、くて、ま、まこ、ちゃん」
その言葉に満足したように、花宮はまた笑顔を見せる。
そうして今がした満たされたはずの腹をさすって、
「妊娠しちゃうかなぁ」
お前は男だろうと、そんな全うな指摘さえ出来なかった。
こんな、こんな男の中で達してしまうなんて。
ひどく自分が浅ましいものに思えた。
けれどそれを口に出すことはしない、出来ない。
「妊娠、してたら、責任、とってくださいねぇ?」
するすると指がまた、腹の窪みを辿って臍をくい、と引っ掻く。
「翔一さんに良く似た男の子、が良い、なぁ」
おとこのこ、と脳内で花宮の言葉を反芻する自分がいる。
アルバムで見たことのある幼少期の自分を思い浮かべて、そこに花宮の特徴的な眉を付け足す、
そんな空想をした自分があまりに自然だと思えてしまった。
「名前、何にしますか?」
また腹の上でゆさゆさと揺れ始めた花宮が、嬌声混じりに首を傾げる。
「…は?」
与えられ続ける直接的な快感に唇を噛み締めながら何とか花宮を見つめた自分は、
彼の目にどういうように映っていたのだろう。
確かに言えることは、
それすら花宮にとっては煽っているようにしか見えなかったらしいということだ。
きゅう、と締め付けられ、咥え込まれたままのそこは愚かにもまた熱を持ち始め、
それが更に花宮を喜ばせているのは一目瞭然だった。
しょーいちさんの、おっきくなったぁ、とけたけた笑う無邪気な声に、
もう何を言う気も起きなくなっていた。
「翔一さんとオレの名前から一文字ずつ取って、真一とか、良くない、ですかぁ?」
狂ってる、そう思うのはきっと楽だった。
けれども中学の頃からずっと知っている彼が、それを邪魔してきて。
「ねぇ、ほら、きっとオレたちに似て、賢い子ですよ」
真一、真一、と生まれもしない子供の名前をひどく愛おしそうに呼びながら、
腰を振り続ける彼はとてもじゃないが正常だとは言えないのに。
「ほら、翔一さんも呼んであげてください」
既に痣だらけの腕をひかれて、痛みに顔を顰めながらも導かれたのは平坦な腹。
「此処に、真一がいるんですよ」
指先から伝わるはずのない鼓動が、聞こえた気がしていた。



結局、花宮はそれ以降自分の元には現れず、
自分も男に犯させられたなどと吹聴する勇気はなく、そのままにしてきた。
猫は死ぬ時は姿を晦ますと言う。
あれから花宮のことは風の噂にすら聞かなく、まるで死んだようだった。
そう思えば、最後の思い出に、と考えたのだったら、と、
許せはしなくても、忘れることは出来るような気がしていた。

だが、それは間違いだったのだ。

たちまちに冷えきった脳の奥とは反対に、沸騰するように熱くなった胸を掻き毟りたかった。
妻を突き飛ばすようにして向かった先はトイレで、
そこに既に消化され切った夕飯を全て吐き出す。
それでも尚吐き気は収まらなくて、もう綺麗に治ったはずの傷がじくじくと疼き出す。

あれは、確かな恐怖だった。

それなのに、それなのに。
滑稽にも未だ熱を保ち続けるそれは明らかに先ほどの行為の名残ではない。
忘れることも叶わない程、この身体に刻みつけられた、
どろどろで行き場のない、それこそ吐き気がするような想い。
それを、思い出してしまったから。

ああ、くそ。
十年以上経った今、あの全ての理由が分かって、今吉はトイレの便器を殴るしか出来なかった。

ずっと、オレが、のこっているでしょう?

何処かで無邪気な声が聞こえた気がした。



何処かでちらっと見たryp美学より
20130424