Christmas Sketch:霧崎+木吉
*数年後設定
*十二番くんの名前捏造(満川くん)
*花宮くんが大分丸い
ざわざわとする人混みの中を靴音を鳴らして歩くと、
振り返った人々が驚いた顔をして、面白いように道を開けていく。
最初はいやでたまらなかったこの馬鹿馬鹿しい赤い衣装だが、いざやってみると面白い。
周りにいる四人は高校時代同じ部活に所属していた面々だ。
黒いスーツ、黒いサングラス、耳には黒いイヤホン、そして腕には赤い腕章。
地元商店街の名が刻まれたそれは、よくよく見ればちぐはぐにも思えた。
ただならぬ空気を纏いながら、駅から商店街までの道を進んでいく。
もう少し、もう少し。
予め決められたポイントに到達すると、前方から声がした。
「見つけた」
周りにいた黒スーツがばっと花宮をそれから隠すように寄り添う。
「見つけたぞ、サンタクロース―――!!」
そう嬉々として叫んだ男―――木吉は、トナカイの格好をしていた。
元々この話は原が持ってきたものだった。
「ねー花宮、クリスマスって予定入ってる?」
二ヶ月も前のことである。
今のところないけど、と返すとじゃあ何もいれないで!との返答。
「ちょっと早めに帰省しようよ。どうせ年越しはこっちでするつもりっしょ?」
「そうだけど。何かすんのかよ?」
「ね、花宮」
がしっと手を取られて、
「サンタになろ?」
変態的な誘い文句と共に、その年のクリスマスの予定は決まってしまったのである。
なんてことはない、原の家がある商店街の客引きをやれ、という話だった。
「そこまで過疎ってる訳でもないんだけどね〜。
東京だし、やっぱ消費者は新宿とかちょっと遠くてもそっち行っちゃうじゃん?
それをちょっとばかり阻止出来ないかな〜ってのがウチの商店街の建前」
「建前なのかよ」
「うん。本音は楽しいことやれればいっか、くらいだよ」
原が説明してくれたストーリーは、こうだ。
科学の発展によりトナカイが不要になったサンタクロースはトナカイを解雇してしまう。
しかし、子供たちにプレゼントを配りたいトナカイはそれに納得がいかず、
こうして日本に降り立ったサンタクロースを追ってやってきたのだ―――!
「…良いのか、そんな泥沼臭するストーリーで」
「良いんじゃない?もう企画通っちゃったし」
「…そういうもんなのか」
「そういうもんだよ」
かくして、いっちょ地元商店街の繁栄に貢献しますか、ということになったのである。
「…流石木吉だな、スピードはそこそこでも迫力が凄まじい」
「古橋、冷静に実況しないで!」
ばたばたと追ってくる木吉―――トナカイからサンタクロースを守るべく、
黒服たちは彼を妨害(する演技を)していた。
そもそも何故木吉が参加しているかと言うと、なんてことはない、
帰省してからの計画を練っていたところに彼がやって来てしまって、
その全貌を知られることになったからだ。
ちなみに何の因果か花宮と木吉の進学先は同じである。
花宮の授業が終わるのに合わせて元霧崎の面々で押しかければ、
奴の目に止まってしまうことくらい考えて欲しかった、というのが花宮の本音だ。
けれども発案者である原がおもしろ可笑しく話してしまったため、
そういうことなら俺も手伝いたい!と言う木吉を拒む権利など花宮にはない訳で。
結局、木吉を含めた七人で商店街の手伝いをすることになったのだ。
「―――という訳でサンタクロースを追って、トナカイは日本にやってきたのです。
不当な解雇だと訴えるトナカイ、時代は最先端テクノロジーだと主張するサンタクロース。
この追いかけっこ、一体どうなるのか!?
おっと、サンタクロースが商店街に逃げ込みました!
トナカイもボディーガードに妨害を受けながらも必死で追う―――」
ナレーションを務めるのは最後の一人、霧崎で十二番をつけていた満川である。
彼の言葉通り、一行は商店街に辿り着いていた。
サンタクロースがまず一つ目の店へ向かう。
ここから本格的な演技(と言って良いのか)が始まる。
元々あった大まかなシナリオに出演者プラス商店街代表で集まり、
練りに練って追加した細かい台詞があるのだ。
それをトナカイが忘れていなければ大丈夫だ。多分。
「はな…ッと、サンタクロース!俺を解雇するなんてもう一度考えなおしてくれ!」
「るせー!
オレは現代科学の恩恵を受けながら子供たちにプレゼントを配るんだよバァカ!!」
マイクを借りてはいるが如何せん其処まで高価なものではないので、
音を拾わせるにはそれなりに声を張らなければならない。
「…アイツ、花宮って、」
「言いかけたな」
横でそうぼやく山崎とそれにかぶせる瀬戸。
ちなみに黒服たちには予算の関係でマイクは配られていない。
一応台詞はないのだから良いのだが、
いざとなったらサンタクロースのマイクに近寄って叫べと言われている。
トナカイが名前を呼び間違えそうになったことなど気にせず、サンタクロースは続ける。
「見ろ!この電気湯たんぽを!レンジでチンするだけであったけーのが三時間!
トナカイくせぇお前なんかよりずっと素晴らしいだろう!」
「トナカイくさいって酷いな!?」
「本当のことだろ!それに比べてこれはくさくねぇ!」
「で、でも、それ三時間だけなんだろ?俺はずっとあったかいぞ!」
「…プレゼント置きに入ったおうちで借りれば良いだろ」
「…それは犯罪じゃないか?」
「プレゼント代だと思えば安いだろ」
「………」
後半のだめな感じはさておき、こうして一店舗につきひと品、紹介していくのが元々の目的だ。
楽だと思うことなかれ、五十店舗近くあるものを一件一件回っていくのだ。
勿論休憩はあるが相当な労働である。
「という訳でやっぱりお前なんて解雇だー!」
「あ!」
電気湯たんぽを丁寧に棚に戻すと、店主に一礼して次の店へと向かう。
少し時間を置いてから、トナカイがまた追いかけてきた。
焼き肉の産地がどうこう、生産者の顔が云々、丁寧な仕事がなんたら。
時にはおすすめを聞いて、サンタクロースとトナカイの思い出エピソードを絡めて、
同じような台詞を何度か繰り返してやっとすべての店を回りきった頃には、もう陽が傾いていた。
「なぁ、サンタクロース。どうしても、だめか?」
「く…っ。だめに決まってんだろ!」
このシナリオの最後はサンタクロースが折れてトナカイを再雇用、というハッピーエンドだ。
世間一般イイコちゃんが好みそうな、もっと言えば花宮の一番嫌いな終わり方。
しかしながら高校卒業後、それなりに花宮は丸くなったと自覚している。
それがただ単に世界が広くなったからなのか、
奇しくも進学先が同じだった木吉に絡まれまくるうちにゴリゴリ削られたのかは分からないが。
切に後者ではないことを願う。
ともあれそういう訳なので、演ずるくらいなばらハッピーエンドだとてキレイゴトだとて、
引き受けたからにはやってのけるだけなのだ。
最後の店は雑貨屋だった。
店主におすすめされたのは可愛らしい写真立て。
フレームのカスタマイズがそこそこ可能で、
いくつかあるパーツの中から組み合わせを選べるらしい。
それをあーだこーだ言いながらサンタクロースとトナカイがそれぞれ組み立てていく。
「なぁ、サンタクロース」
「ンだよ」
「お前はこれにいれる写真を、一緒に撮る相手がいるのか?」
「それは…」
「湯たんぽやプレゼントに埋もれるお前だけの写真より、
俺と一緒に肩を組んで、今年も仕事を一緒にやりきったぜ!っていう写真の方が、良くないか」
「………」
「なぁ、サンタクロース。
お前も本当は分かっているんだろう?
効率だけが仕事の全てじゃない、ぬくもりだって大切なんだ。
特にお前のような、世界で唯一の仕事をするような奴には」
重ねて言うが、これは演技なのである。
サンタクロースはトナカイにこうして籠絡されてしまうが、
それがそのまま花宮が木吉に、という話にはならない。
「俺はお前が今日紹介したたくさんのものにきっと劣るだろう。
けれども、お前に寄り添うことが出来る。お前の心に寄り添って、支えてやることが出来る。
寒い夜を飛び回るのは辛いだろう、
いくら暖かな器具を揃えたって、一人だったらしんどいだろう。
だから、俺は、」
「…もういい」
言葉を遮る。
「トナカイ、お前の言う通りだ。
オレ一人でプレゼントを配り切るのは心細い、お前に一緒にやって欲しい。
解雇したりしてごめんな…」
「サンタクロース…!」
がしっと握手。
「今年のクリスマスもよろしくな!」
「ああ、勿論だとも!」
「こうして、トナカイは無事にサンタクロースの所へ再就職し、
今夜も一緒に子供たちの元へプレゼントを配るのです―――」
満川のナレーションがそう締めると、周りからぱちぱちぱち…と拍手が起こった。
サービスだ、と言わんばかりに握手した手を上に上げ、そのまま一礼してみせる。
隣の木吉も少しばかり遅れたが、同じように一礼してみせた。
何はともあれ、やりきったという充足感はそんなに嫌なものではなかった。
「おつかれさまー」
今回協力した七人はこころばかりの謝礼と、最後に紹介した写真立てをおまけでもらっていた。
「花宮」
木吉が話しかけてくる。
「…お前とは撮らねーぞ」
「えっ何で言いたいことが分かったんだ?
花宮ってもしかしてエスパーなのか?」
「ンな訳ねぇだろ!
写真立てもらってさっきの演技をふまえたら予想くらいつく」
「そうか…」
木吉の眉尻が同情を誘う形に下がっていた。
しかし、花宮にとってはそんなこと、どうでもいい。
「どうしても駄目か?」
「どうしても駄目だ、誰がお前なんかと撮るかよ。
おい、原、満川呼んでこい。記念撮影すっぞ」
満川はまだ少し離れたところで商店街の人と話していた。
原がけたけたと楽しそうに笑う。
「木吉もいれてあげればいいじゃ〜ん」
「うるせぇ絶対嫌だね、早く行け」
「ハイハイ〜」
他の三人にも声を掛け、商店街の人に実はこっそり持ってきていたカメラを渡した。
六人並んで一枚目を撮ると、視界の端で木吉がしょんぼりとした顔をするのが見える。
「…ああもう、くそ!入りたかったら入ればいいだろ!」
その言葉にぱあ、と顔を輝かせて駆け足で寄ってくる木吉。
「はい、チーズ」
ぱしゃり、二回目のシャッター音。
後日花宮家に飾られることとなった写真立てには、
七人の人間が仲良さそうに映った写真が入ってた。
20131224