不可避アイルルマ



*うちのこ(オリキャラ)×黒子のバスケ
*恐らくクロスオーバーという分類であっているはず
*俺得でしかないです
*若干ホラー注意
*でも本当に若干



ちりん、と来客を告げる鈴の音がして、皇涼水はいつものように玄関に客を迎えに行った。
「…あれ?」
が、客の姿は見当たらない。
普通ならば扉を開けただけで帰ってしまったのかと思うところだが、
それはもう様々な種属の客がやってくるこの白狐の黎明堂で働いて四年目になる涼水にとって、
客が帰ったというよりは、姿の見えない客が来た、という可能性の方が先に浮かんでくる。
思考が完全に一般のそれから離れてしまったことが、悲しいような切ないような。
「誰かいませんかー」
「あの、」
きょろきょろと玄関を見回す涼水に声が掛かった。
「目の前にいます」
ぱちり、と視界が晴れたような気がした。
水色の髪を持つ、白いブレザーを着た少年。
顔立ちの幼さから中学生くらいかと思われる。
「わ。新パターン」
「…驚かないんですね」
「慣れてますから」
申し訳なさそうな水色の彼。
目の前にいたにも関わらず、声を掛けられるまでその姿に気付くことが出来なかった。
「あの、気付いたらこのお屋敷の門の所に立っていて…道を聞こうと思ったんですが」
「あー…此処、そういう所だから気にしなくて良いですよ」
明らかに困っている様子の彼に涼水は小さく呟くと、
「とりあえず、中へどうぞ。お茶出しますから。
直ぐ帰らないといけない用事もないでしょう?」
中を指し示した。
客は少しの間迷っていたが、根負けしたかのようにお邪魔します、と脚を踏み入れる。

水色の彼は、黒子テツヤと名乗った。



「此処は白狐の黎明堂。
お使いから誘拐マデ何でもござれナ所謂何でも屋デス。
本当に助けを求めル者が扉を開いタ時、此処に通じルように出来てマス」
居間に通してお茶を出した所で、店主である筑紫いずみは黒子に自己紹介する。
子供のような外見をしたいずみに黒子はひどく驚いていたが、
つらつらと並べられる説明にそんなことはどうでも良くなったらしい。
「ファンタジーですね」
「ファンタジーは嫌イ?」
「いいえ。
ただ…ちょっと受け入れ難い話ではありますね」
「デモ君にハ、そんな受け入れ難イ悩みがあるんデショ?」
小さく黒子が目を見開く。
「分かるんですか?」
「分かルって言うカ、僕、見えル人だカラ。
君の肩に乗っテ影を吸っていルそれも見えルんだよネ」
いずみの言葉に涼水と黒子が肩を震わせた。
影を吸っているって何だそれ、気持ち悪い!
涼水はそういうものが見える人間ではないが、いろいろあって見たことはある。
だから余計に想像がついてしまう。
気持ち悪い。
「…僕の、存在感がどんどん薄くなっていくのに、それは、関係しているんでしょうか」
「関係してルだろうネ」
そこで、漸く黒子は彼の持つ悩みを話し始めた。

生来影の薄い黒子は人に気付かれにくく、幽霊扱いされたり、
ひどい時には自動ドアにスルーされたりしていた。
だが、それでも声を掛ければ気付いて貰えたし、
親しくなれば目の前に居るだけでも分かってもらえることもあった。
しかし、最近はそうではなくなってきたのだと言う。
親しかったはずの人にも声を掛けないと気付いてもらえなくなり、
知らない人にはぶつかっても存在を認識されなくなって来たのだ。
「え、でも、私声掛けられたら気付いたけど」
はい、と涼水が手をあげる。
黒子と涼水は初対面のはずだが。
「それは涼水が慣れてルからだヨ。
黒子クンの周りにいルのはどう足掻いてモ一般人だカラ、
そういウことにハ対処出来なかっタんだろうネ」
「…なる、ほど?」
言外に一般人ではないと言われた涼水だったが、流石に突っ込むのは止めておく。
「それで、悩みながら自分の家の玄関を開けて、気付いたら此処に」
「ねぇいずみ、やっぱこのシステム変えない?
黒子くんもそうだけど、いつもこのシステムで来る人、すごく戸惑ってるし」
「そんなことしたラ裏の人間シカ来なくなるジャン。
商売あがったリだヨ?」
涼水の言葉を受け流し、いずみはじっと黒子を見つめる。
「元々影は薄いんだネ」
ふむ、と呟いて続けた。
「君、何処ぞの憑喪神の加護を受けているネ。
ある一時期カラ何となく幸運に恵まれルようになったデショ」
心当たりがあるのか、黒子が小さく微笑む。
「そのおかげデ影を吸ウ速度は遅いシ、死ぬようナことにモなってなイんだろうネ」
物騒な言葉が聞こえてきた。
「ちょっと待っていずみ。
それ、加護がなかったら黒子くんはとっくに死んでるって聞こえるんだけど」
「そう言ってルんだヨ」
さあっと黒子の顔から血の気が引いていくのを涼水は見た。
こんな所で働き始めて四年目、
人の生き死にが関わる案件も何度か見てきたには見てきたが、そうそう慣れれるものではない。
「そ、そんなこと軽く言わないでよ!
黒子くん青くなってるじゃん!」
「エー…デモ、生きてるんだシ、良くなイ?」
いずみの感性は少しばかり人とズレている。
それを知っている涼水ははぁ、と盛大にため息を吐いて、
黒子にごめんねこの人こんなで…と言うしかなかった。
涼水の言葉にいずみの感覚が若干可笑しいことに気付いたのか、
まだ青いものの何度か血の気を取り戻しながら、黒子が口を開く。
「…その、肩に乗っているものを取り除くことって、出来るんでしょうか」
「出来るヨー」
いずみが簡単にこの店のシステムを説明する。
願いを叶えるためにはそれ相応の代価が必要なのだと。
「スーパーで野菜買ったラお金払うデショ?そういウことだヨ」
「何となく分かりましたが…僕の場合は何を渡せば良いんでしょう?
僕に渡せるものってありますか?」
そうだネ、といずみは顎に手をあてた。
暫くじっと黒子を見つめて何やら考えている。
「君に憑いていル不届き者を祓うノニ、君の受けていル幸運の次のものを一つ。
どうカナ?」
ぴきん、と何処かで硬質な音が聞こえた気がした。
「その、幸運を渡してしまったら、僕が死んでしまうようなことにはならないんですよね」
「ウン、まぁ、一応。
これは本来そういウ幸運じゃないカラ。
例えこの取引のあとニ君が死んデしまったリ、怪我をしてしまってモ、
この所為じゃなイと断言は出来るヨ」
いちいち例えが物騒なのはどうにかならないのだろうか。
「まァ、幸運だト代価としては大きすぎルんだけどネ。
君が渡せルものっテ、それくらイしかないカラ。
こっちからオマケつけとくネ」
はい、と手渡されたのは可愛らしい封筒。
「これは…?」
「オマケ」
答えになっていない。
今度は何処からかぱちり、と音がした。
パズルのピースが填るような、何か安心する音だった。
「それは帰ってからデモ読んでヨ。
きっト君の為になルものだカラ。
…交渉成立で良いカナ?黒子クン」
くてん、といずみは首を傾げる。
それをじっと真剣な顔で見つめて、黒子もしっかりと頷いた。



「じゃア黒子クンは動かないでネ。怖かったラ目を瞑ってテ」
黒子を深くソファに腰掛け直させ、いずみはその対面にちょこんと座る。
「榊丸〜ちょっトあれ、倒しテ〜」
のんびりといずみが黎明堂の見えない従業員を呼んだ直後、黒子の肩に鋭い風が吹きつけた。
「ン、ありがト。
とりあえズこの瓶の中に入れといテ」
いずみが虚空に向かって喋ると、何処からともなく瓶を取り出す。
それに手慣れたように今日の日付と黒子テツヤの影喰みと書き込んだシールを貼った。
「ハイ、次は幸運ネ」
ちょっと待て、今ので終わったのか。
くらり、と眩暈がしそうになりながら、涼水はツッコミを抑え込む。
黒子も驚いた顔をしてはいるが、
仕切る人間が気にしていないのならさっさと進めた方が良さそうだ。
いずみにとってこれはそう騒ぎ立てるものでもなかったのだろう。
そう納得するしかない。

いずみがすっと掌を黒子に差し出すと、ふっと辺りが暗くなったような気がした。
黒子の胸がぽう、と淡く光って一粒の光がいずみの手の中に落ちる。
いずみをそれをきゅっと握ると黒子の胸の光は収まり、辺りの明るさも元に戻った。
「これデ君の存在感は元に戻ったヨ」
にっこりと笑ういずみに、
目の前で起こる不思議な現象についていけていなかった黒子も、
やっと微笑みを浮かべたのだった。



「あの封筒なんだったの?」
黒子を玄関まで見送ってから、涼水はいずみに尋ねる。
「あれは四月カラ、必要になルって渡されタものだヨ。多分予言」
いずみの口から出て来た名前に涼水も聞き覚えはあった。
会ったことはないが、同業者の店に籍だけ置いている予言者らしい。
月の始めに一ヶ月分の予言を渡しに来てくれている。
その所為で今月の代価は上乗せだったと笑って付け足すいずみ。
「それ、黒子くんにあげちゃって良かったの?」
言葉のままにとるならば、四月は必要になると言っただけで黒子に渡せとは言っていない。
予言には様々な種類があるとは知っているが、
大体がその人に必要なものであることが多いことを涼水は知っている。
「…個人的にネ、タイミングの悪イ客が来ルって忠告されタんだよネ。
その人に渡スのが一番良イって解釈出来たカラ」
「それって…」
「ウン、多分黒子クンのことだろうネ」
人間の幸運とは殆どが連鎖的になっているものだ。
もしも、その中の始まりの一つを手放したらどうなるのだろう。
そのあとに続くはずだった幸運は、失われてしまうに違いない。
「幸運っていうのはすごク扱い辛くてネ、一番近イものにしか触れられなイことが多いんダ。
黒子クンの場合、本当に他に代価として機能すルものがなくテ…」
「…でも、幸運じゃないことが不運とイコールである訳じゃないでしょ?」
涼水の口から零れ落ちた言葉は、何処か慰めの色をしていた。
そうだネ、と笑ういずみに更に続ける。
「それに、黒子くんは一般人だし」
もうこちらに関わることはないだろう、との意味を込めた言葉だった。
いずみはこういうことに少々無責任になっても良いと涼水は思っている。
例えそれを行ったのがいずみだとしても、選んだのは客である彼らなのだから。
「でもネ、涼水。
この世界でハもう二度ト関わらなイだろウって思う人程、またタ廻り逢ったりすルんだヨ」
にっこりと笑っていずみが放った言葉も、ある種の予言のように涼水には聞こえた。



かさり、と風に便箋が揺れる。



    影に一つの幸を殺せど
    恐るることなど何もない
    掌(たなごころ)の光を零せど
    お前の往(ゆ)く先は同じ光に溢れている



「…そう、ですか」
握り締めてしまったことで少し皺のよったそれを綺麗に伸ばして、
また元のように封筒にしまう。
それを大切そうに内ポケットに入れると、黒子は歩き出した。

恐れることはない。
どんなに辛いことが起ころうとも、
往く先は同じ光に溢れているのだと、背中を押されている。
悲しい予感に胸を痛めることはあっても、それに絶望しなくても良いのだ。

ぎゅっと力の込められた拳は、やけに寂しげに見えた。



参照:虚清音
20121228