Ask ! About worth of my love !!:花原
「花宮ってさァ、なんてーか、恵まれてるよね」
そんな言葉が口から飛び出たのはとある放課後のことだった。
テスト前の準備期間だとかで部活は中止、
それは男子バスケ部も例外ではなく、仕方なく人の蠢く図書館の端に居座っている。
目の前の天才様は課題もテスト範囲もいつの間に終わらせたのやら完璧らしく、
悠々と擦り切れた文庫本を読んでいた。
擦り切れたカバーと黄ばんだページからどうも古い本らしいと伺えるそれを、
残念ながら原はタイトルすら読む気にはなれない。
「はぁ?」
少し遅れて花宮が顔を上げた。
その眉は顰められていて、ああ綺麗な顔が台無しだ、なんて思った。
台無しにさせたのは他でもない自分であるのだが。
「ん、だーかーらーね、恵まれてるって言ってンの」
この天才が先ほどの言葉を理解出来なかったとは思わない。
だからおちょくるようにもう一度繰り返した。
でも困ったことにこの手段にはもう慣れているらしい花宮は、
それ以上表情を歪めることはしなかった。残念。
「馬鹿なこと言ってないで課題終わらせろ」
「んー。ちょっと分かんなくなっちゃってー」
「…何処だよ」
「教えてくれるの?花宮やっさしー」
「レギュラーに赤点取られちゃ堪らないからな」
花宮の方に分からなかったイディオムの羅列を差し出すと、ああこれは、と解説が始まる。
それはとてもわかり易くて、ああやっぱり、と思うのだ。
「分かったか?」
「カンペキ〜」
花宮が元の位置へと戻ってまた本を開く。
「やっぱりさ、花宮は恵まれてるよ」
肘をついてもう一度その言葉を繰り返す。
「…お前が恵まれてないとでも言うのか?」
心底馬鹿にしたような返答がやっと返ってきて、原はにこ、と笑みを漏らした。
「まっさか。
でもさ、花宮が恵まれてるのに気付いてないから、ちょっと焦れてるっていうかさー」
がたん、と身を乗り出してみればすぐに縮まる距離。
こんな馬鹿らしいものを今生大事に抱いているのは、臆病だからか。
それとも、正しくあろうとするさいごの抵抗なのか。
むにゅり、とその感触に一瞬思考が追いつかなかった。
開いた文庫本に遮られた即席の世界。
でもきっと、テスト前の人間はよそ見をしている余裕などない。
「恵まれていることに気付かないのは確かに痴鈍だがな―――
オレは言葉にすらならないモンをどうこう、だなんて。
そっちのが傲慢で救いようがないと思うがな」
にやりと見慣れたその表情で笑うと、花宮は何事もなかったかのように読書に戻っていった。
すとん、と力が抜けたように元の位置に戻り、顔を覆う。
―――このオレにこーんなに愛されてるなんて、ほんっと恵まれてるのに、気付かないなんてさ。
全部分かられていただとか、掌の上だったとか、いろいろと思うことはあったけれど。
とりあえず、今日はもう課題はこれ以上進まないだろうなぁ、
と既にパンク寸前の頭で、原はそんなことだけを思っていた。
問え!私の愛の価値を!!
20131226