祓魔師と悪魔
諏佐佳典が魔障を受けたのは、本当に幼い頃のことで、本人はあまり憶えていない。
超ド級の霊媒体質として生まれた佳典は神社に預けられ、
それなりに平穏な生活を送っていたらしいのだが、誘拐なんてものにあい、
大した加護もなしに神社の敷地内から出てしまったことが原因らしい。
誘拐犯に引っかかれ、角やら何やらが生えているのが見えて、幼いながらに死ぬんだと思った時、
今は見慣れた金髪が助けてくれたのだけははっきりと覚えている。
その時に何か一哉と約束―――契約をしたらしいのだが、生憎その内容についてはさっぱりだ。
救出された佳典の辿々しい説明で、悪魔と契約を交わしてしまったことを知った養父は、
彼にに祓魔師の道を示した。
死ぬような経験をした後で酷だろうが、と言う養父の提案を、、
ああいった場面で対処できるようになるのなら、と幼い言葉で受け入れた。
そして、今に至る。
「よーしーのーりー」
にゅ、と後ろから出てきた腕に抱き付かれる。
「一哉」
「お仕事お疲れー」
以前、同族を屠る自分に嫌悪感はないのかと聞いたことがある。
返って来たのは、
「オレは佳典がいてくれればそれで良いよ。
佳典が傷付くなら、オレは王だって殺しにいくよ」
という何処まで冗談なのか分からない言葉だった。
幼い頃の誘拐事件以来、一哉はずっと佳典につきっきりだ。
悪魔の言葉には耳を貸すな、とは口を酸っぱくして言われることだが、
一哉と会話することは、既に習慣になってしまっている。
「佳典は教えるの上手いと思うんだけど。教師はやんないの?」
若い先生もいるんでしょ?と首を傾げる一哉に、諏佐はため息を吐く。
「生徒は悪魔見えるんだぞ。
いつも自由気ままにオレの周りを漂ってるお前もばっちり見えてんだぞ」
更に花宮でも来てみろ、生徒が可哀想だ。
「あ、それは良くないねぇ」
「説明を求められても、良い理由は思いつかないしな…」
お前はまだ言う気はないんだろう?と問えば、ごめんね、と返って来る。
謝るくらいなら言ってしまえば良いのに。
「佳典が思い出してくれるの、オレ、待ってるからねー」
「…自分から言う気はないんだな」
「うん」
自由気ままな前髪悪魔との人生は、まだ始まったばかり。
20121122