何度でも聞きたいから聞こえないフリ:赤山



出会ったのは中学の全国大会だった。
こちらはトイレを出たところでぶつかられて、いちゃもんを付けられているところだった。
彼らはその前の試合で負かした者たちで、
ぶつかったのはただの切欠なのだろうとぼんやり思っていた。
全国まで来てこんなことに巻き込まれるなんて、とため息を吐きたくはなるが、
あれだけ心を折るような試合をした後なのだ、それも仕方ないと思えてしまう。
仮にも常連校だ、暴力沙汰にはならないだろうとは思うが、
だからと言って延々と怨嗟の声を聞いているのもいい気分ではない。
どうしたものか、と見上げていると、呆れたような声が降って来た。
「寄ってたかって何やってんだよ」
ひょろりとした体躯とその髪の色、そして何よりもその目つきが分かりやすく威嚇をしていた。
少なくともこちらにはそう見えた。
ぱっと見不良な外見をしているが、
同じ学年にいる灰崎のことから考えて、彼はそうではなさそうだと判断する。
「運営呼ばれたくなかったらさっさと散れ」
その物言いでその予想は確信へと変わったようなものだったが、
目の前の彼らにすんなり退場してもらいたかったのもあり、黙っていることにした。
気まずげに顔を見合わせた彼らがそそくさと逃げていく。

二人残された空間で、はあ、と息を吐いた彼を改めて見上げる。
黒の制服。
都内の私立中学のものだろう。
有名ではないがそこそこ安定した学校のはずだ。
それから考えても、やはり彼は不良ではなく、ましてやこれは気まぐれでもなんでもなく、
彼自身の価値観によって行われた行為であると判断出来た。
「ありがとう」
笑って礼を言う。
「別に、礼を言われるようなことはしてねぇよ」

そんな出会いから、二年。



「…何でお前、東京にいるんだよ」
わざわざ学校まで行って捕まえたその人は、眉間に皺を寄せてそう言った。
「帰って来たからに決まっているだろう?」
「…あ、そ」
これ以上は無駄だと考えたのか、彼はそれ以上追求はしなかった。
突然の来訪者に彼も、彼のチームメイトも目を丸くしていたが、
正直そんなことはどうだって良いのだ。
「弘」
名を呼ぶ。

あの出会いの後、制服から学校を割り出して、
更に名前を割り出すのにさして時間はかからなかった。
最初に会いに行った時は割りとドン引かれたような気がするが、それは置いといて。
そうして何度も対面を重ねていって、友達になって、
東京と京都と大きな距離を経て、やっと気付いた。

「僕は君が好きだよ」
だから帰って来て真っ先に君に会いに来たんだ、
そう告げると面白いように頬が赤く染まっていく。
赤くなるということは意味はちゃんと伝わっているらしい。
もしもの時は強引な手段をとろうと思っていたから、そっと胸をなで下ろした。
流石に、嫌われるかもしれないようなことはやりたくない。
「君は?」
じっと見つめていると、そのまま耳まで赤くなっていくから面白かった。
わたわたと視線を泳がせている彼を更にじっと見つめると、観念したように俯いた。
「…嫌いじゃ、ねぇよ」
小さな、本当に小さな声ではあったが、聞き逃すはずもない。

自分よりずっと高い位置にある首に手を回して、強制的に屈ませる。
「聞こえなかったからもう一回」
近くなった耳元でそう囁けば、ぶわ、とまた赤くなるのだから、もう。



診断メーカー 4×8の日(大遅刻!)
20130705