花リコ
所謂ひとつの終焉
終わらないものなど、ひとつとしてないように。
しかし終わりはきっと、何かのはじまりでもあるのだろう。
*
君の声が聴こえた気がした
ばちり、と視界が一気に晴れたようだった。ああ、そうだ、と花宮は思う。
その思考に至るまでにそんなに時間はかかっていなかった。
ただ、実行するのに少しの躊躇いがついて回っただけで。
その時間が少し、というにはあまりに膨大すぎるのも、良く分かっているのだ。
とてもじゃないけれど、自分という人間が独占するには、輝きすぎていて。
不相応なのだ、と分かっているのに認めるのはこれ以上ない程癪で。
だから言い出せなかったのだ、そう言い訳する。誰にって、自分以外の誰がいると言うのだろう。
「…すきだ」
一生、言わないと思っていた言葉。馬鹿馬鹿しい、そう思っていた感情。
もう名前は付けられた、気付いたものを気付かなかったふりは、出来ない。
そう思ったから始めたのだ、それは向こうも分かっているだろう。
けれど、もう。
こんな茶番はたくさんだ。
「さよなら」
言う。もう絶対に、振り返らない。
ふと、リコが振り返る。
「リコ? どうした?」
いち早くそれに気付いた木吉が首を傾げて問うた。
他のメンバーも足を止めたリコに、何かあったのかと視線を飛ばしていた。
「…何か、呼ばれたような気がして」
ざあ、と風が木の葉を揺らしていった。ただ赦しを請うようなそれは、暫く耳の奥を離れなかった。
*
ずっと忘れない
「簡単だろ?」
ふは、ともう聞き慣れたその笑い方で花宮は哂う。
分かってない。ぎり、とリコは唇を噛んだ。
その笑い方する時は、少なからず嘘を吐いている時だ、本人は気付いていないだろうが。
本人でさえ掬えないような、心の奥底の本当を、
リコだけはちゃんと掬ってやるつもりでいたのに、これからも。
この馬鹿は、その覚悟ごと切り捨ててしまうつもりだ。
「お前はたのしいお仲間に囲まれてんだからよ、それでこんな記憶、消しちまえ」
それとも、と嗤う。この馬鹿みたいに幼い顔が好きだなんて、それはきっと惚れた弱みだったけれど。
「俺が消してやろうか?」
「…遠慮しておくわ」
物理的な提案をしてくるのは分かっていた、
だから痛みが好きな訳ではないリコはそれに頷くことはしない。
それで良い、という顔を花宮はしていた。
「じゃあな、もう会うこともないだろ」
最後に手を振る、その律儀な背中を見つめて、見つめて、そのまま消えるのを見届けてから。
「絶対、忘れてなんかやらないわ…」
呪いのように。
リコはそう呟いた。自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
*
今更言っても、もう止まれない
あの時一言、赦すと言っていたら、何か変わったのだろうか。
でも、彼のことだからそんな嘘、笑い飛ばしてしまうんだろう。
それが分かっていたから引き止めなかった、それを忘れてはいけない。
この胸の痛みを、彼一人の所為にしてはいけない。
違う人生を歩んでいく上で、もう二度と交わることなどないのだろう。
あれは本当に一度きり、一度きりの奇跡だった。
それを手放したのは彼で、それを咎めなかったのは私。
彼に罪はない、罪なんてものがあるのだとしたら、
彼を赦せなかった、赦せないなりに何かを、と思えなかった、私。
ぎゅう、と自分を抱き締める、そういえば、抱き締めてもらったことなんかなかった。
ただ只管細やかな優しさだけが身体に残って、
例えば人混みで手を繋ぐことだとか、混んでいる電車でさりげなくかばってくれることだとか、
高いところのものをさっと取ってくれることだとか。
「忘れられるはずないじゃない」
こんなに、好きなのに。
けれどももう時は動き始めた。きっと彼も、私のことなんか忘れようとして生きていく。
忘れろと言った手前、自分がしないなんて出来ない、彼はそういうプライドの持ち方をする。
「馬鹿ね」
わたしたち、というのは言葉にならなかった。
一粒。
絶対に彼の前では流さないと決めた涙が、落っこちた。
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20150518