花リコ
所謂ひとつの終焉 終わらないものなど、ひとつとしてないように。 しかし終わりはきっと、何かのはじまりでもあるのだろう。 *
君の声が聴こえた気がした
ばちり、と視界が一気に晴れたようだった。ああ、そうだ、と花宮は思う。 その思考に至るまでにそんなに時間はかかっていなかった。 ただ、実行するのに少しの躊躇いがついて回っただけで。 その時間が少し、というにはあまりに膨大すぎるのも、良く分かっているのだ。 とてもじゃないけれど、自分という人間が独占するには、輝きすぎていて。 不相応なのだ、と分かっているのに認めるのはこれ以上ない程癪で。 だから言い出せなかったのだ、そう言い訳する。誰にって、自分以外の誰がいると言うのだろう。 「…すきだ」 一生、言わないと思っていた言葉。馬鹿馬鹿しい、そう思っていた感情。 もう名前は付けられた、気付いたものを気付かなかったふりは、出来ない。 そう思ったから始めたのだ、それは向こうも分かっているだろう。 けれど、もう。 こんな茶番はたくさんだ。 「さよなら」 言う。もう絶対に、振り返らない。 ふと、リコが振り返る。 「リコ? どうした?」 いち早くそれに気付いた木吉が首を傾げて問うた。 他のメンバーも足を止めたリコに、何かあったのかと視線を飛ばしていた。 「…何か、呼ばれたような気がして」 ざあ、と風が木の葉を揺らしていった。ただ赦しを請うようなそれは、暫く耳の奥を離れなかった。
ずっと忘れない
「簡単だろ?」 ふは、ともう聞き慣れたその笑い方で花宮は哂う。 分かってない。ぎり、とリコは唇を噛んだ。 その笑い方する時は、少なからず嘘を吐いている時だ、本人は気付いていないだろうが。 本人でさえ掬えないような、心の奥底の本当を、 リコだけはちゃんと掬ってやるつもりでいたのに、これからも。 この馬鹿は、その覚悟ごと切り捨ててしまうつもりだ。 「お前はたのしいお仲間に囲まれてんだからよ、それでこんな記憶、消しちまえ」 それとも、と嗤う。この馬鹿みたいに幼い顔が好きだなんて、それはきっと惚れた弱みだったけれど。 「俺が消してやろうか?」 「…遠慮しておくわ」 物理的な提案をしてくるのは分かっていた、 だから痛みが好きな訳ではないリコはそれに頷くことはしない。 それで良い、という顔を花宮はしていた。 「じゃあな、もう会うこともないだろ」 最後に手を振る、その律儀な背中を見つめて、見つめて、そのまま消えるのを見届けてから。 「絶対、忘れてなんかやらないわ…」 呪いのように。 リコはそう呟いた。自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
今更言っても、もう止まれない
あの時一言、赦すと言っていたら、何か変わったのだろうか。 でも、彼のことだからそんな嘘、笑い飛ばしてしまうんだろう。 それが分かっていたから引き止めなかった、それを忘れてはいけない。 この胸の痛みを、彼一人の所為にしてはいけない。 違う人生を歩んでいく上で、もう二度と交わることなどないのだろう。 あれは本当に一度きり、一度きりの奇跡だった。 それを手放したのは彼で、それを咎めなかったのは私。 彼に罪はない、罪なんてものがあるのだとしたら、 彼を赦せなかった、赦せないなりに何かを、と思えなかった、私。 ぎゅう、と自分を抱き締める、そういえば、抱き締めてもらったことなんかなかった。 ただ只管細やかな優しさだけが身体に残って、 例えば人混みで手を繋ぐことだとか、混んでいる電車でさりげなくかばってくれることだとか、 高いところのものをさっと取ってくれることだとか。 「忘れられるはずないじゃない」 こんなに、好きなのに。 けれどももう時は動き始めた。きっと彼も、私のことなんか忘れようとして生きていく。 忘れろと言った手前、自分がしないなんて出来ない、彼はそういうプライドの持ち方をする。 「馬鹿ね」 わたしたち、というのは言葉にならなかった。 一粒。 絶対に彼の前では流さないと決めた涙が、落っこちた。 http://shindanmaker.com/125562
20150518