おまえが愛とよんだものは:花山



いつだってその姿を見れば胸の辺りが焼けるような心地がしていた。

人当たりは良い方、頭も決して悪い方ではない、
そして人の領域にどの程度踏み込んで良いか、
そういう気配りが勿論本人は自覚していないが、出来る。
手元に置いておくには非常に扱いやすい人種で、過去の花宮もそう思ったからこそ手駒に加えた。
実際彼の隣というのはそこそこ心地好く、これはアタリだ、とまで思っていたというのに。

ぎらぎらと、青い焔が舌を伸ばすような、そんな、感覚。

それが嫌に気持ち悪くて、
うっかり部室に二人きりになった金曜日、部誌を書き綴るその手を気付いたら掴んでいた。
「…花宮?」
壁際に追いやられるようにして置かれた机。
その椅子に座った状態から見上げてくる瞳は怪訝(かいが)の色をしている。
それがまたあまりにも素直な反応で、
恐らくこれが花宮でなくともこうなのだと思ったら、余計に腹立たしかった。
「なんだよ、花宮。黙ってたらわかんねーだろ」
困ったように眉根を寄せてみるも、手を振り払おうとしないのは許容されているからだろうか。
「はな、み、」
声が、途切れた。

掌から暖かさが伝わってきて、その時初めて花宮は自分の手が冷えきっていたことに気付いた。
力を込めればその椅子ごと、壁へと身体が押し付けられる。
はく、と喘ぐように酸素を求める唇が、伽藍堂な胸を満たしていくような気がした。
「やまざき」
いつものように、
花宮の手が現在進行形で彼の首を絞めていることなんてないみたいに、花宮は呟く。
「オレは、お前といると、落ち着かない」
懺悔のようだ、と思った。
「お前はオレが認めた優秀な駒だ、オレの見立てに間違いはない。
なかった。
お前はこの曲者集団をまとめるのに一役買っているし、オレもお前がいれば心地好いとさえ思う。
だけどな、最近は駄目なんだよ。
お前が誰かと話していたり、笑っていたり、触れ合ったり、
そういうふうにしていると、訳もなく腹が立つんだよ」
言っている内容はまるで駄目な男だ。
けれども花宮の声は内容に反して静かだった。
縋ることもなく、そう、殺人宣告のように。
このまま本当に、首を絞めて殺してしまおうと言うかのように。

は、と。
苦しそうに漏らされたのは、確かに笑いだった。
「ンだよ、そ、れ。告白、みたい、だ、な」
絞められた喉は、平常よりワントーン高い声しか出せないようだった。
まるで山崎ではないようで、花宮は驚いて手を緩める。
「こく、はく?」
「違ぇのか、よ」

今度は花宮が鼻で笑う番だった。
「これが?」
手に力を入れなおすとまたその顔が歪む。
「これが、愛だとでも言うのか?ほんとうに?これが?」
先ほどと同じようには力は入らなかった。
けれども足りない空気が頬から目元まで朱色に染めて、その瞳に涙さえも浮かべて行く。

いいだろ、と山崎の唇が紡いだ。
「それが、愛で、も、良い、だろ」
息も絶え絶えに吐き出す、その姿が。その表情が。その唇が。
ひとつひとつ、花宮に浸透していくようで。

もう手に力は入っていなかった。
げほ、と咳き込む音がわんわんと耳の底に響いて、
愛なんて陳腐な名を付けられたことがひどく幸福で、それと同時に、ひどく哀しかった。



(この世でいちばん、うすよごれたものだ) 4×8の日 シュロ
20140409