揺蕩う首の白日:蜜蟷



夏ももう終わる頃。
里へと帰る途中の森での休憩中、それは視界に飛び込んできた。
「兜虫だな」
見たままのそれの名を蟷螂が口にする。
「そうですね」
同じようにそれを眺めながら蜜蜂は答える。
ひっくり返っているそれは傍目には死んでいるようにも見える。
しかし、忍として鍛えられた視力がその足が僅かに藻掻くように動いているのを捉えていた。
もう夏も終わるのだ、特に珍しい光景ではない。

「兜虫と言うのは良い」
死にかけのそれからじっと目を離さずに、蟷螂はそう呟く。
「勝手に首が落ちるのだ」
それの何処が良いのだろう、言葉にはしなかったが蜜蜂はそう思った。
夏が終わると森に転がっている昆虫たちの死体が、蜜蜂は幼い頃から苦手だった。
愛に尽きた蝉も、干からびた蚯蚓も、首のもげた兜虫も。
どれもこれも死の様を身体を以って表しているようで、ひどく気持ち悪かった。

「美しいとは思わんか」
息を飲む。
蟷螂の方をそっと見やると、先ほどと同じように一点の曇もなくそれを見つめている。
美しい、あれが?
もう一度視線の先に目をやるが、
やはりうぞうぞと力なく動いているだけで、死体と変わりないように見えた。
死を目前にして足掻いている様子を見ると、死体より醜いのかもしれない。
「私が落とさなくとも、自ら首を落とすのだ」

その表情は何処か恍惚としていて、ああ、この人は、と蜜蜂は思う。
忍として不似合いな程、時折人間らしいことを考える。
その爪で数えきれない程、首を落としてきたと言うのに!
あまりにその思考は残酷で、それでいて純真だ。
だからこそ、と蜜蜂は蟷螂を見つめる。

蕩けるような眸が胸が痛む程に凍り付いていることも、蜜蜂は知っていた。



(自ら首を落とす兜虫が愛おしい蟷螂さん)
20130705