さよなら、せかい。:蝙蝠+川獺
せり上がって来るようなその慣れた感覚に、厠へ飛び込んだの最早習慣と言っても良かった。
胃の入り口をぐっと抑えて、そこから中身が出て来ないようにして走る。
少し、少しの間耐えられれば大丈夫、厠はすぐそこだ。
そうして間に合った昏い穴の中へ、蝙蝠はおえ、と勢い良く吐瀉した。
真庭蝙蝠がこうしてものを食べたあと、衝動的に吐くのは、何も珍しいことではなかった。
別段、食べ過ぎだとかそういうことはない。
そもそも真庭の村は食料不足で、吐くほど満腹に食べられるなんてこと、ないのだから。
気の済むまで吐いて、汚れた口を水で濯いで。
外へ出ればそこには、親友が立っていた。
「また?」
へら、と笑った顔に同じように返す。
「おう、でももう収まったぜぇ」
ぽん、と腹を叩くと良い音がした。
中身に何も入っていない、空虚な音。
否、術で忍具やら何やらは大量に入っているので、そんな音は蝙蝠の願望なのかもしれない。
川獺はなにか言いたそうに、じっと蝙蝠を見ていた。
「それってさ、」
暫くして、こてん、首が傾く。
「なんとかなんねぇの?」
息を、止めた。
別に、食べたもの全てを吐いている訳ではないのだ。
こうして頭領としてある以上は強くあらねばならないし、
そのためには身体を鍛える必要があって、更にそのためにはものを食べなければならない。
ただ、時々こうして無性に自分がものを食べていることが可笑しくてたまらなくなって、
どうしようもなくて厠へと飛び込むのだ。
「さぁな」
口元に浮かんだ笑みは癖か否か。
吐き出された息は、止められていたとは思えない自然さで消えていく。
そっかー、と川獺は頷いた。
いつも通りの軽い声に、そーだよ、と返した。
それだけだった。
20140513