むかしのはなし:蟷→蝶
*まにわににとって幸せなように物語が進んだらの話
蝶々と鴛鴦の結婚前夜、虫組頭領たちは三人で飲んでいた。
酒に弱い蜜蜂は早々に潰れ、今は床と仲良くしている。
こうして飲むことがなくなる訳ではないだろう、
蝶々も、勿論鴛鴦も結婚後も今と動揺頭領を続けるつもりだと言っていた。
この人手不足な里の状況からすれば、それはとても有り難い判断だった。
くるり、と傾けた猪口にはまだ酒が残っていた。
その張る面に、うっそりと月が映っている。
まるい、月だった。
今日は満月だったな、なんて見上げると、水面よりももっと大きく輝く月があった。
それに魅せられでもしたのだろうか。
今までかたく閉ざされていた心の奥が、ゆるりと溶けていく音がした。
「私はぬしのことが好きだった」
ぽろりと、口にしてしまえばなんてことはない言葉だった。
ただの思い出。隣にいた蝶々にもそれは聞こえていただろう。
一瞬、動きが止まる。
「好きだったのだよ」
静かに、本当に静かに告げられたその懺悔のような言葉に、
蝶々は少し眦を下げて、そうか、と一言返しただけだった。
たったそれだけで、この積年の思いが浄化されていくような心地がしていた。
明日にはきっと二人の結婚を心から祝える。
そう思えば一筋、
頬を流れていったものを蝶々が見ないふりをしてくれたのは、この上なくありがたかった。
(あなたはわたしのはつこいでした)
20140626