見えない首輪:蟷七
ぱちん、と一際大きな音と共に指先から痛みが走る。
「…七実」
「すみません、失敗してしまいました」
これも刀のうちに入るのですかね、巧く使えません。
そんなふうにしらを切る七実を、蟷螂はじとり、と見つめた。
足の爪の手入れをしたいのだと、七実が言い出したのは本当に突然のことだった。
いや、彼女に関しては突然でないことの方が多いので、
そう考えてみるとそう珍しいことではなかったのかもしれない。
今度は何を企んでいるのかとヒヤヒヤしながら足を差し出して、その矢先のことだった。
左の親指の爪は少しばかり多く切り取られていて、そこから肉が顔を見せていた。
血が出ているのを見ると、思ったよりも深く切られたらしい。
自分の足のことなのに他人事のように蟷螂はそう思った。
「ご存知ですか?」
独り言のように七実は呟く。
「人間は足の爪があるから立っていられるそうです」
つう、と傷口をその死人のような指がなぞっていった。
じくじくとした痛みを広げられているようで、蟷螂は僅かに顔を顰める。
「聞いたことはあるが」
「蟷螂さん」
七実は、顔を上げない。
「こうして地道に爪をなくしていくことは可能なんでしょうか」
それには答えなかった。
愛おしそうに傷口をなぞる指は今にも死にそうで、
見慣れているはずなのに嫌にそれが背筋を凍らせる。
「ああ」
七実の方も、答えを期待している訳ではないようだった。
「それが出来たらきっと良いのでしょうね…いえ、悪いのかしら」
鈴の転がるようなその声に、
いつか近い未来、この声が聞けなくなってしまうのだと思ったら、ひどく悲しかった。
20140809