氷の涙:蝙→とが



雪の色に、夜の空の色に、思い出す女が一人いる。
にこりともしない氷のような女だった、腹の底まで腐ったような、人間を人間と思わないような。
貧困に窮している真庭忍軍に最後の希望をもってきた、そんな女。

裏切りを言い出したのも、最終的にそれを決めたのも、勿論蝙蝠自身ではないけれど。
それでも蝙蝠だって裏切ることについて特に反論した訳でもないのだ。
頭領の中で一番に同じ時を過ごした蝙蝠としては、
賛成こそすれ反論など考えられないものではあったが。
手を切れるなら今すぐにでも、そう思っていたのに。
こうして離れてみればふとした瞬間に蘇ってくる。

最後に自分はなんと言ったのだろう。
丁度関わっていたのが蝙蝠だったからで、その人選に特に深い意味などないのだ。
ぺらぺらとそのよく回る舌で裏切りの旨を伝えたのだろうが、
その内容はもう一つとして覚えてはいない。
恐らく自分の口をついて出たであろう挑発の捨て台詞よりも、
ぎゅっと耐えるように結ばれた唇や、見開かれたその色の違う瞳が、
ただただ瞼の裏に焼き付いていて。

声もあげずに、涙も流さずに、けれどそれでもその表情は泣いているようにしか見えなかった。
声のあげ方も忘れたのかもしれない。
涙の流し方も忘れたのかもしれない。
そんなこと、蝙蝠にとってはどうでも良いことだったけれど。

「なぁ、頼むから、笑え、よ」
届かないと分かっているからこそ、溢すことが出来る、なんて。

どうしようもねぇな、と一人ごちると、あとにはもう笑いしかもれなかった。



診断メーカー 泣きじゃくる君に「ねぇ、お願いだから笑ってよ」 (どうしようもない、ね)
20130803