「蟷螂ちゃん、最近、あいつ出してるの?」 そう狂犬に問われたのも、 「あの…蟷螂さん、体調優れないんですか?」 「最近顔色悪いぞ?」 蜜蜂と蝶々に心配されたのも、もう限界であることを指し示すことに他ならなかった。 ぐるぐるまわるうんめいのごとく モブ蟷 人払いを完全に済ませた隠れ家で、蟷螂は一人深く呼吸をしていた。 本当ならばこんなことはしたくはない。したくはないが、これが蟷螂の名を継ぐ者に課せられた運命(さだめ)なのだと言われてしまえば仕方がない、と思う。 衣類をすべて脱ぎ捨てて布団の上に横たわれば、待っていた、とばかりに腹の中がどくり、と疼いた。早くしろ、とでも言うようなその熱さに思わず布団へと突っ伏す。 「ひ、…ッう、あ…っ」 身体の中から押し出されるような、というのは表現ではない、と思う。蟷螂は自らのその部分など見えやしないが、それでも何度かこれをやっているのだ、何が起こっているのかくらいしっかりと把握している。 ミチミチと音さえ立てる肉の狭間から出てきたのは、手。白っぽくて硬そうなそれは、明らかに人間の手と同じ形をしていた。それは藻掻くようにずるずると蟷螂の肉を弄び、ばきばきぐにゃぐにゃと関節のあらぬ方向へと折れ曲がるような音と共に布団の上へと吐き出された。 「あー久々の外!」 立ち上がったのは男だった。男、というよりは青年、と言った方が正しいだろうか。てらてらと不思議に光を反射する肌をした、棒のような青年だった。衣服を纏わない彼はそれを気にするふうでもなく、ん、と伸びをすると、くるりと蟷螂を振り向いた。 ぐったりと布団の上に伏せている蟷螂はそれをぐっと睨み付ける。その脚にはつう、と血が伝っていた。 「あーあ、切れちまって。定期的に俺を出さないからだぜ? 蟷螂さんよ」 「…ぬしのような者を、おいそれと出して、たまるか…ッ」 「アンタは変わんないね」 ま、そこが良いんだけど、と男は蟷螂に手を伸ばす。痛みと倦怠感に苛まれている蟷螂にそれを避ける術はない。 「さわ、るなッ」 「今更そんなこと言うなって」 腰を持ち上げられ、尻を突き出すような形にさせられる。そして徐にそこに顔を近付けたと思うと、男はその太腿を伝う血液に舌を這わせた。 「ッやめ、」 「アンタの太腿ってほんと生っ白いよな、忍のくせに。いや―――忍だからか? 太陽になんか当たらないもんな。しっかし血の味、薄くね? ちゃんと食ってる?」 「…お前は知らんだろうが今、里にそんな余裕はない」 「ふうん。知らないけど、頭領くらいはちゃんと食ってないとそれこそだめじゃね?」 何も知らないはずの男は薄ら笑いを貼り付けたまま、蟷螂に伸し掛かってくる。 「どーせ狂犬に言って人払い完璧にしてんだろ? ヤる気満々じゃねーか」 男の言う通り、唯一事情を知る狂犬に言って、人払いはしてある。でなければこんなもの、おいそれと出せるはずがない。だが、だからと言ってこの行為を受け入れるつもりもないのだ。しかしながら暴れようとしても男を身体の外に出したことで体力はごっそりと持って行かれ、抵抗もままならない。男がものをあてがうのを睨み付けるしか出来ないのに唇を噛み締めると、男は気を良くしたように舌なめずりをした。 大した抵抗もなくすんなりと飲み込まれていく性器。排泄口はそんな役割を持っていないはずだが、大の男一人を吐き出したあとでは何を言ってもちぐはぐな気がした。 ああ、と思う。 こんな―――こんなもの、殺してしまっても良いのではないのか。狂犬にも鳳凰にも、そして先代蟷螂にも、これを殺すなとは口を酸っぱくして言われたものだが。それでもこんな屈辱を甘んじて受け続けるなど。 「アンタさ、自分がこんな目にあってるの、納得いかないみたいだけど。俺はなるべくしてなったように思うぜ?」 思考を見透かしたように男は笑った。 「アンタ、遊女みたいな顔してンだよ。男に媚を売って抱かれて可愛がられる、そういう顔してンの」 「だ、れが…ッ」 「そう、その顔」 がっと前髪を掴まれ、無理に上を向かされる。 「サイコーにソソる」 ぎちり、ぎちり。軋む音も血の音も、粘膜の擦れる音もすべてが痛みになる。 痛みになるはずなのに、どうして。こんなにも浮かされるような熱が、身体中を駆け巡る。 「呼べよ、俺の名前」 唇を噛み締める。 「ぜん、まい…」 誰よりも良く知っているその忌まわしい名前が、つうっと頬を伝って落ちていった。 20160923 |