僕らはひとり、互いにひとり。 七花+否定姫

 未練という話になった。遺品をずっと持ち歩くのはどうなのだろうと、そういう話をした。
「おれも姫さんも、こうして遺品ってやつを身につけてる訳だけどさ」
それってだめなんかねえ、とそんな言葉が出たのは、供養だとか成仏だとか、そういう世界の話を聞いたからかもしれなかった。とはいえそんなことをしてもとがめが戻って来る訳でもないので、七花からすればどうでも良いことだったが。
 どうでも良いことでも、会話にはなる。会話を、しなくてはならないということはない、けれど。すべてとがめが教えてくれた。一つ残らずおぼえている。
「馬鹿ね、七花くん」
ふいに、そのふわりとした思考が遮られる。
「私にはもうこれくらいしか残ってなかったから持って来ただけよ」
 凛とした、けれども何処かに怠惰を乗せたその声が七花の耳をくすぐっていく。
「元々これは私の持ち物だった訳だし」
小さな、とがめと同じような指が、彼女よりもずっときれいな指が仮面を撫ぜるのを、ただ眺めていた。その光景を。
 ひとは慈愛と呼ぶんだろう。そんなことを思った。
「アイツの遺品を身に着けている訳じゃあ、ないわ」
「じゃあおれも」
ふせられた目に笑う。
「おれも、これは遺品じゃない。これは、おれがとがめにもらったものだ」
「…そういうのは屁理屈っていうのよ」
「姫さんには言われたくないなあ」
そういうのはアンタの得意分野だろ、と言えばそうじゃなくもないかもしれないわね、といつもの面倒くさい言い回しが返って来た。



20160328