どれだけの哀しみを見てきたのだろう、どれだけの苦しみを見てきたのだろう。それを言い訳ととってもらえるか、それとも、美園流依は幸せだったのだと、思ってもらえるのか。

√A 

 紅。
 何が起こったのかきっと海斗には理解出来なかっただろう。その色だけがやけに鮮やかで、美しくて、自虐の笑みが溢(こぼ)れるほどだった。
「流依…?」
力なく倒れる身体。海斗の慌てた声にも、一生懸命抱き締めてくるそれにも、反応を返せない。きっと取られた手ははっとするほど冷たいのだろう。だってそういう病気なのだから。
「どうしてこんなこと…」
 血の海、と言って差し支えがないだろう。それほどに流依は勢いをつけなければ勝てなかった。本能よりもずっと本能らしい病気は、いつだって流依を蝕んでいたし、美園流依もその所為で死んだようなものだったのだから。
―――もう、助からない。
それは海斗にだって分かっているだろう。それでも泣いて、どうして、と言ってくれる彼が、とても嬉しくて。
―――流ちゃんに会いに行くだけよ。
そう言ったら彼は浮気だと、笑ってくれただろうか。流介を愛していたのは美園流依ではないけれど、それでも笑ってくれただろうか、非道い奴だと罵ってくれただろうか。そうであったなら、良かったのに。
 海斗が何も出来なかった訳ではない。何もさせなかったのだ。それが正しいと分かっていたから。自分の首を貫いたカッターナイフが、落ちていく。肉に突き刺さっていたと思っていたのに。
 さよなら、とは言わなかった。必要ないと、思っていた。美園流依はひどいのだ。最後まで、海斗に選ばせる。足音が聞こえる。

 遠くの海で、何かの落ちる音がした。
 なんで置いていくんだよ、と海斗が笑った気がした。



初代Aパート



20170321