絶対的支配者の名前は　山青 　飼い主が変わるだけなのに犬というのは結構頑固でなかなかそれを認めたがらない。安寧を与えて居場所を与えて仕事も与えてついでに寵愛とかそういう類のものだって。欲しかったものは全部与えたのに未だ反抗的な目でこちらを見るのだから。ああ、困るな、と思う。そんな目をさせたらいじめたくなってしまう。加虐趣味はなかったはずだけど、それはそれとしてこの真っ直ぐな世界にばかり憧れる犬をへし折ってやりたくなる。 　だから、顎に手をかけてやった。顔を覗き込むように、目を閉じないように見張りながら。言ってみなよ、と口にする。 「お前の主は誰だ？」 嫌そうに悔しそうに歪むその唇が、自分の名前を紡ぐ瞬間を、待っている。 ＊ ストレーガの憂鬱　@strega_odai 20191221