さようなら君と僕



「お前、が」
やっとのことでひねり出した声は、奇妙に歪んで聞こえた。
「ああ、俺だ」
目の前の顔はにぃ、と笑うばかりだ。
そんな見て分かる答えなど求めていない。
「お前は―――何故、と聞きたいのだろうな？」
そう、聞きたいのは何故、だ。
彼と私が向き合っている、こんな状況になった理由の説明を求めている。
「なぁに、簡単なことだ。
お前を裏切るのはお前でしかあり得ない、それならば俺が裏切るのだって納得が行くだろう？」
俺は、お前なんだ、から。
耳元で囁く声の低さまで同じだった。
心根からぞわぞわと不快感がせり上がって来る。
「俺だって、言うなら…ッ」
「俺につくのもあっただろうって？」
鼻で笑われる。
甲高いその笑い声が嫌に耳につく。
「あのなぁ、俺にだって選ぶ権利はあんだよ」
分かっているよな、紛れもないお前のことなんだから。
その言葉がじわじわと脳髄を侵食していく。
分かっている、知っている、俺がどんな人間であるのか、だからこそ思うのだ。
「こんな人間、誰も選ばない」
にやにやと未だ目の前から消えない彼が言ったのか、
それとも俺が言ったのか、それはもう分からなかった。
「それにさぁ、選ぶ権利があれば選ばれる権利もあんだよ」

いつの間にかその手には抜き身のの刀が握られていた。
爛々と昏く輝くそれは、そうだ、まるで。
「眸のようだな」